こんにちは、再春館製薬所の田野岡亮太です。
雨水(うすい)の次の節気、2025年の「啓蟄(けいちつ)」は3月5日から19日でした。
1年に二十四めぐる「節気」のありさまと養生について、ここ熊本からメッセージをお送りします。
【田野岡メソッド/二十四節気のかんたん養生】
今年はすべての花が遅くて短い気がします
土の中で冬ごもりしていた虫や生き物が穴を開いて、地上へはいでてくる。啓(ひらく)、蟄(生き物)、啓蟄とはそのような時期です。ひと雨ごとに春が近づいてくる気配が感じられる……はずなのですが、3月17日18日の熊本には雪が降りました(笑)。
春の到来をつげる春雷がひときわ大きくなる時期でもあります。東京も3月19日に雪が降ったそうですが、朝から春雷が轟いたと聞いています。春雷の音に驚いた虫たちがはい出してくるころと啓蟄を捉えることもできます。
熊本空港からほど近い再春館製薬所ヒルトップ、ドモホルンリンクルの製造現場である「薬彩工園」の前のしだれ梅です。まさに紅梅というべきこの美しい色と、あたりにかすかに漂うほのかな梅の香りを楽しみにして、毎年密かに咲くの指折りにしています。ですが、3月1日2日に主婦の友社さんのイベント「BeMeご自愛市」に参加するために東京に出向いたところ、なんとその数日の間に咲いてしまい、帰ったらもう散りかけていました。今年はすべての季節の花の開花が遅く、かつ見ごろが短いと感じます。
春、多発するストレスを一手にひきうけてくれるのが「肝」
さて、この季節に活躍する「肝」を掘り下げていきましょう。
肝の機能は全身の気の発散を調節してくれます。これを肝の疏泄(そせつ)作用と呼びます。身体の気がギュッと固まってしまいそうになると、この疏泄作用のおかげで気の流れが調節されます。、
ところが、春は卒業・入学・転勤など環境の変化や出費がかさむ原因が多く、いわゆる“ストレス”に感じることが多い季節。ストレスは気をギュッと固めてしまいます。例えると、使い始めの毛糸玉はするすると糸が出てきますが、絡まってしまった毛糸玉はギュッと固まってしまってどこからほぐしたらよいかわからない…こんなカンジです。絡まってしまっても元々は1本の毛糸。落ち着いてほぐせば元に戻ります。
ストレスに感じていることが長く続き、気がギュッと固まった状態が長く続くと、肝にこもった熱が火になると中医学ではイメージします。こうなると精神的には“イライラ”した状態になります。
先ほどの「絡まってしまった毛糸」は、落ち着いて解けば1本の毛糸に戻ります。ただ、イライラした状態では、なかなか落ち着けないのが現実とも思います。そんな時は“柑橘の香り”を試してみてください。香りは鼻から入って脳への刺激に変わるので、ストレスを感じている身体のバランスに直接働きかけてくれます。春は金柑・八朔・ネーブルなどの柑橘系の果物がスーパーに並びます。スーパーでオレンジ色の柑橘コーナーを見かけたら、「あ!これは今日のイライラを解消してくれる救世主!」と思っていただいても良いかと思います。
季節と暦に少しずれがある春、ストレスを一手に引き受ける肝の機能に嬉しいレシピは
再春館製薬所の正門を入ってすぐ目にすることができる白梅。「今年はなかなか花がつかないな…」と思っていたのですが、今年も見事に満開の花が咲きました。「梅の実は健康の秘訣」と思っているので、梅の開花をとても気にしてしまうのですが、記録を見返すと昨年の満開は3週間ほど前でした。昨年秋から季節と暦の顕著なずれが気になっていますが、春もずれがあるようですね。
さて、1つめは「えりんぎとベビー帆立の金柑煮びたし」です。
えりんぎには「舒筋(じょきん)」の効能がありますので、身体の筋や筋肉をのびやかにすることが期待できます。肝の気がストレスでギュッと固まると、そのストレスは筋肉に写し取られると中医学では考えています。「緊張している時には深呼吸!」と言いますが、緊張のストレスで固まってしまっている横隔膜を意図的に動かしてストレスの影響を取り除く!…そんなイメージです。このえりんぎを中心に、“柑橘の香り”に金柑を選びました。同じく肝の機能に働きかけるベビー帆立で旨味を加えて、春菊・クコも肝の機能に働きかけます。ちょうどお花見のシーズンですので、お弁当に持参いただくと意外性のあるおもてなし料理になるかもです。
えりんぎは1cm厚の輪切りにして、断面に縦・横に隠し包丁を入れます。フライパンでベビー帆立と合せたら、オリーブオイルで表面に焦げ目がつく程度に炒めます。そこに水300ml、薄口しょうゆ大さじ1/2、料理酒大さじ1、塩小さじ1/2、はちみつ大さじ1/2を入れ、輪切りにした金柑・クコを合せて5分煮ます。その後、15~20分置いて味をなじませます。器に盛り付けて、春菊の葉の部分を散らしたら完成です。金柑の酸味・香りとベビー帆立の旨味を、はちみつの甘みで軽く包み込んでくれるおすすめレシピです。
2つめは「いわしのかぶ器蒸し/新たまねぎ・オレンジソースかけ」です。
肝に熱がこもって火がつくと、肝から煙が上がると中医学では考えます。その煙は身体の上部に挙がり、頭の中に充満すると目や耳から抜けようとします。目から抜けると…これが目の疲れとなってあらわれます。つまり、目の疲れは肝に火がついているほどストレスを感じていることも一因として考えらえます。いわしはそのままでとても美味しい魚ですが、「明目(めいもく)」の効能があり、目の疲れに働きかけることが期待できます。これをかぶの器に入れて蒸すレシピです。かぶは「補五臓・益気」の効能があり、五臓の働きが円滑になるように気を補うことが期待できます。これを器にしていわしを蒸すので…春のおなかに嬉しい組合せです。合せるソースには、オレンジ・新たまねぎを使いました。オレンジは“柑橘の香り”の効能が、新たまねぎは気のめぐりへの働きかけが期待できます。
いわしは生魚で手に入るようであれば、うろこと内臓を落とし、3枚おろしにして身をたたきます。手軽に作るのであれば、いわしの水煮缶を使用しても良いです。かぶは皮つきのまま茎を切り落として底を平らに切ります。かぶの中身をスプーンでうつわ状にくりぬき、かぶの中身はみじん切りにしていわしのたたきと合せます。いわしの身にはしっかりと味があるので、塩を小さじ1加えるだけで味つけは十分です。蒸し器で10分蒸している間にソースを作ります。中サイズの新たまねぎ1つをみじん切りにし、薄皮までむいてほぐしたオレンジと合せて、薄口しょうゆ小さじ2、料理酒大さじ1を加えます。鍋で軽くひと煮立ちさせて、水溶き片栗粉でとろみをつけたらソースの完成です。お皿にソースをひき、蒸したかぶを乗せたら完成です。
新年度を迎えることで何かとストレスが多くなる時季の春。ストレスを一手に引き受けてくれる肝の機能に“柑橘の香り”を是非届けてあげてください。
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