首都圏の2025年中学入試は、受験者数5万2,300名(首都圏模試センター調べ)。過去40年で3番目に多い受験者数となり、受験率も18.10%と過去最高の2024年につぐ高さだった。 中学入試の問題が「思考力」を問われるものが増えている、と言われるようになって久しい。保護者世代の中学受験の際は難関校で出題されていたといわれるこうした問題は、今や難関校以外の学校でも当たり前のように出されており、長文を読み進めながら必要な情報を選択し、書かれている条件を整理しながら解き進めたり、複数の資料を基に考えをまとめて記述したりと、相当に高度な内容が小学6年生に課されている。こうした入試問題の変化を受け、大手の中学受験塾でもカリキュラムが変化してきている。 変化のひとつが、スタート時期の低学年化といえる。もちろん、小学4年生(小学3年生2月開始)から通塾を開始する家庭が大半を占めるが、首都圏4大塾のうちSAPIXや早稲田アカデミー、四谷大塚では小学校1年生からクラスを設定。たとえば早稲田アカデミーでは低学年から論理力を伸ばす講座を開設しているし、関西をおもな拠点とする浜学園でも低学年から非認知スキル教育にも力を入れるなど、「低学年向け」の授業を展開している。思考することの楽しさに浸る経験を 4大塾のもうひとつ日能研では、2025年4月から、これまで小学3年生からだった「予科教室」のスタート時期を1学年引き下げた小学2年生からスタートするという。小学生のための中学受験塾を標榜する日能研が、この判断に至った理由はどこにあったのだろうか。 「日能研では、子供の成長に合った学びを大事にしています。今、世間の一部では中学受験において、成績に拘り過ぎて早期からの詰込み学習に走ってしまうケースもみられます。本来、子供にとって未知に出会うこと=学ぶことは楽しいものであり、楽しければ子供はその中に没頭する。その経験を日能研は大事にし、自ら思考する力を育んでいきたいのです」(日能研広報担当)。 そこには、発想力が豊かな低学年の時期だからこそ、思考することの楽しさに浸る経験を積ませたいとの考えがあるという。たとえば国語のテキストでは、「解くために読む」ような作りではなく、文章そのものを楽しめるよう、傍線も引かれていないため、そこで出会った文章に純粋に浸る経験ができる。解答解説も、子供自身が読んで自ら理解を深められるような内容になっているという。時間的余裕のある低学年時だからこそ 4年生以降になると、本格的な受験勉強の内容にシフトする。そのため、授業では受験に必要な知識や技術・解法を学んでいく。家庭学習用の課題も次第に増えるし、定期的に実施されるテストもある。ともすると子供は時間に追われ、「早く宿題を終わらせたい」「答えだけ知りたい」となる場合もある。低学年のうちからじっくり思考する経験を積み、「考えることが楽しい」「書くことで思考を整理する」という実感を育むことができれば、4年生以降の学びにも良い影響をもたらせるかもしれない。 世の中はどんどん変わっていき、この先どうなっていくかわからない、単一の答えのない「VUCAの時代」の中にある。先行き不安な状況下であっても、子供が変化に立ち向かうことができる力を身に付けてほしいと、より良い環境を求めて私立中学の受験を考えはじめた保護者も多いだろう。低学年向けの授業では、近年の入試の変化への対応だけでなく、人生という長いスパンを見据えた思考力・判断力・表現力などをライフスキルとして育成することを目指している。各塾が提供する低学年からの学びによって得た力は、未来できっと、その身を助けてくれる武器となってくれるはずだ。