結婚を機に、配偶者の実家や地元へ移り住むカップル。
親の介護や将来の相続問題など、さまざまな事情が背景にありますが、特に都会から田舎への移住は、生活環境が大きく変わるため「想像以上に大変だった」という声もよく耳にします。
一方で、夫が「妻のため」や「家族のため」を思って行動しているつもりでも、結果的には妻の不満を募らせてしまうことも少なくありません。特に義母が近距離に住む「敷地内同居」に「都会と田舎」という文化的なギャップが絡むと、夫婦間のトラブルが一気に表面化しやすくなります。
今回インタビューに応じてくださったのは、タケヒサさん(38歳・会社員)です。東京から離れた実家のある田舎へUターンして2年が経ちましたが、移住後の妻(33歳・主婦)との生活が「思った以上にうまくいかない」のだとか。義母の干渉や田舎特有の人間関係などで妻が疲弊している中、タケヒサさんの気遣いがことごとく裏目に出てしまい、「空気が読めない」と言われているそうです。さらには夜の営みについても悩みがあるとのこと。
「本当に妻のためを思ってやっているのに、なぜ認めてもらえないのか?」という夫の立場から見た苦悩と本音を、家庭問題研究所・山下あつおみがじっくりとうかがいました。
「空気が読めない」と言われる夫・タケヒサさん
──本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、タケヒサさんがUターンすることになった経緯を教えていただけますか?
「私は人口約1万人ほどの田舎で生まれ育ったのですが、大学進学を機に上京しました。大学卒業後は都内の会社で働いており、同僚の紹介で妻と出会いました。結婚してからもずっと都心のマンションで暮らしていたのですが、昨年父が病気で入院しまして……。母が一人で父を看病しつつ家の管理をしていたのですが、その大変そうな様子を息子としては見過ごせないなと思ったのです。妻と相談して「それならもう田舎に行こう」と決めました。妻にとっては急な話だったと思いますが、私は「長男としての責任」と強く感じていたこともあって、どうしても早く行動したかったのです」
──奥さまはもともと東京育ちなのでしょうか?移住にあたっては反対はなかったのでしょうか?
「妻は生まれも育ちも東京で、車の運転免許も持っていませんでした。最初はやはり『車がないと生活できないなんて想像がつかない』とかなり戸惑っていました。実際、東京なら電車やバス、タクシーなどでどこへでも行けますし、コンビニやスーパーも徒歩圏内にありましたから。でも私は『田舎の暮らしもメリットがたくさんある』と思っていました。土地も家も広いし、自然が豊かでのんびりしている。都会の狭い部屋で家賃を払い続けるよりも、両親のそばに暮らして経済的にも安心したほうがいいのでは、と考えたのです。妻は最後まで迷っていましたが、結果的には『そこまで言うなら…』と受け入れてくれました」
田舎へ移住、両親と同じ敷地内同居
──実家の敷地内にある離れで同居を始められたそうですね。住んでみて、どのような印象を持ちましたか?
「母屋と離れがあって、私たち夫婦は離れをリフォームして住むことになりました。玄関こそ別なのですが、徒歩30秒の場所に母屋があるので同じ敷地内です。私からすると、母が『何かあったらすぐ呼んでね』と言ってくれますし、父の容体も気にかけやすいので安心でした。
ところが妻にとっては、義母との距離が近すぎると感じるようです。母は『せっかく一緒に住んでいるんだから』と気軽に思っているらしく、インターホンを鳴らさずに離れへ上がり込んでくることもあるのです。
冷蔵庫の食材を勝手にチェックしたり、大量の野菜を『はい、これ使って』と押し付けてきたり。私は正直『ありがたい』と思うのですが、妻は『干渉されすぎてストレスになる』と感じているみたいです」
──タケヒサさんが「嬉しい」と思っている行動も、奥さまにとってはそうではない場合があるのですね。そのあたりのフォローはどのようにされているのでしょうか?
「最初は『母さんだって悪気があるわけじゃないし、少し大目に見てあげてよ』と妻に言っていました。しかし、妻は『大目に見てるつもりだけど限度がある』と不満を募らせていたようです。例えば、畑で採ってきた大量の野菜を押し付けられたと妻が訴えてきたときは、私は『じゃあ母さんに少し控えてもらうよ』と提案しました。でも妻は『勝手に言ったら角が立つでしょう!空気が読めない!』と反対するのです」
──いずれも奥さまのためを思って行動しているつもりが、なぜだか空回りしてしまうということですね。そのほかにも「空気を読めない」と言われるのは、どのような場面が多いのですか?
「正直、最初は『妻は言葉がきついな。そこまで言わなくても……』と思っていたんですよ。私は東京での仕事仲間や友達からは、むしろ『人当たりがいい』と言われてきましたし、自分で『空気を読めない』とは思っていなかったんです。でも、妻と一緒に暮らし始めてからは、どうも自分の行動がトンチンカンに受け取られてしまうことが多いみたいです」
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「空気が読めない」と言われたエピソード
──ご自身で空回りしていることに気づいたということですか?
「その場では気づかないんですよね。たとえば、先日も妻が『お母さんがしょっちゅう離れに来るのがストレス』と漏らしていたんです。そこで私は『じゃあ俺が母さんを説得するよ!』と張り切って、真っ先に母屋へ行ったんですよ。妻には『そんなにしょっちゅう来ないであげてよ』って言えないだろうから、夫の私が代わりに立ち回ろうと思ったんです。ところが、私は思いのほか勢いよく母に直談判して、『母さん、ちょっと自重してくれない? ガンガン来られすぎて妻が疲れてるんだよ』みたいにズバッと言ってしまったんですね。そしたら母がめちゃくちゃしょんぼりして『あらそう……私のせいで迷惑なら、もう何も手伝わないわ』ってなってしまったんです」
──なるほど、微妙なボタンの掛け違いがあるということですね。その後はどうなったのでしょうか?
「それだけならまだしも、その話を母がご近所さんに愚痴ったらしくて、『タケヒサくんのお嫁さん、冷たい子なのかしら』『お母さんを追い出そうとしてるのかしらねぇ』なんて妙な噂が広まっちゃったんです。妻は母さんを追い出したいなんてまったく思っていないのに……。『勝手に波風立てないでよ!』と妻から大目玉を食らいました。いや、僕はただ妻を守りたかっただけなんですけどね」
田舎の付き合いを断ろうとして、さらに空回り
──そのほかにも奥さまから「空気が読めない」と言われるエピソードはありますか?
「妻が『最近、田舎の寄り合いとか行事に出るのが気まずい』とぼやいていた時のことです。私は『それなら顔を出して、あいさつだけサクッと済ませて早めに引き上げたらどう?』と提案しました。妻は『せっかく来たならお茶していけば?とか言われて、断りきれない雰囲気になっちゃう』と言うんですよ」
──それでタケヒサさんはどう行動されたのでしょうか?
「そこで私は『あ、じゃあ俺が ”具合悪くて”ってウソをついて帰るから大丈夫!』と胸を張ったんです。妻は『大丈夫かな…』と嫌な顔をしていましたが、私は『任せろ!』と一人で意気込んでしまいました。そして実際、町内会の集まりに参加した際、ご近所さんが『ゆっくりしていきなよ』とお茶を勧めてきたんです。ここぞとばかりに私は『いや、実は妻が体調を崩しそうで……すみません!』と断って帰ろうとしたんですけど、当の妻は至って元気そうな顔をしていたんですよね。周りに『え、どこか具合でも悪いの?』と心配されて、妻は『え?あ…、ああ…まぁ…』みたいに超微妙な反応でした』
──そのあとはどうなったのでしょう?
「その後、家に戻った途端『なんでそんな分かりやすい嘘つくの? みんな私の顔マジマジと見て、元気そうじゃんって思ってたよ! むしろ逆にいたたまれないし!』と猛クレームを受けました。妻いわく『上手に断ってあいさつ程度で帰る方法を一緒に考えたかったのに、どうして一足飛びに嘘になっちゃうの?』とのこと。いやはや、私としては妻が断りやすいようにサポートするつもりが、むしろ恥ずかしい状況を作ってしまったわけです」
──そのほかにも似たような空回りエピソードはあるのでしょうか?
「他にもあります。妻が『最近、こっちの生活に慣れてきたし、パートでも始めようかな』と言い出したときのことです。私は『それはいいね! 俺も応援するよ!』と前向きに賛成しました。ところが、なまじ熱意が空回りしてしまいまして、妻が『まだ求人を探してる段階だし、準備中なんだよね』と言っているのに、私は勝手に義母や近所の人に『うちの嫁、働く気らしいんですよ~』と話してまわったんです」
──なんだか嫌な予感がしますね……。続きを教えていただけますか?
「その結果どうなったかというと、『あら、そうなの? スーパーのレジ打ちなら人手不足みたいよ。面接は私がアポ取ってあげようか?』と、いろんなところから話が殺到しました。
それで妻が『タケヒサが余計なこと言うから、断れない話がいっぱい来てるじゃない!』とイライラしてしまい、私は『えっ、でも働きたいって言ってたじゃん?』とオロオロ…。『いや、まだどんな仕事が自分に合うか探していただけだよ! こんな形で公にしたくなかったよ!』と言われ、ああ、また空気読めてなかったと猛省しました」
──こういう展開がどうしても続いてしまうということですね。奥さまはこれらの出来事について、どう思っていると思いますか?
「本当に、妻からすると『ちょっとは頭を使ってよ!』『どうして何でも即行動に移すの?』と突っ込みたくなるエピソードばかりだと思います。でも私は決して妻を困らせようとか、自分勝手をしたいわけじゃないんです。むしろ『妻が喜ぶ顔を見たい』『不安や悩みを解消してあげたい』という一心で動いているんですよ。ただ、そういうときにどうやって周囲と調整したり、タイミングを図ったりすればいいのかがわからず、勢いだけで突っ走ってしまうんです」
本編では、生まれ育った田舎に夫婦で移住したタケヒサさんが、空気を読めない行動を連発して妻を困らせてしまうエピソードをお送りしました。
続いての▶▶「よかれと思ったのに…『悲惨なサプライズディナー』で妻が大激怒。妻の堪忍袋はどこまでもつのか」
では、タケヒサさんがまたしても妻の意見を聞かず暴走し、夫婦生活の危機を迎える様子をお届けします。