「運用しながら取り崩す」とは具体的にどういうことなのでしょう? あと数年で50代に差し掛かかると、今度は生命保険の見直しや年金受給を控えての生活設計など、考えなければいけないことは山ほどあります。IFAの千田愛さんに伺いながら、少しずつ投資への向き合い方を学んでいきたいと思います!
【50歳からでも取り残されないお金の話】#4
「高額療養上限額引き上げ」に伴い価値が見直される「生命保険」だが、そもそも今が見直すタイミングで
ではいざ投資をするとします。僕のように積立貯金やら保険やらに入っており、正直、そこまで現金も多くない方はどうすればいいでしょうか?
「たとえば生命保険の見直しは重要だと思います。鵜飼さんは生命保険に加入されてたり、保険全般の見直しを考えたことはありますか?」
50代に向けて資産形成を考える際、生命保険の見直しや保険の活用も重要とは本でも読みました。とはいえ、僕自身も小学生の子どもが1人いるので、もしもの時のことを考えると、保険の解約や見直しってなかなか踏み切れないんですよね。
「鵜飼さんのようなケースでご家族がいる場合、生命保険は安心材料に感じますよね。ただ、50代になると子どもが成長していることも多いですし、必要な保障額が若い頃に比べて下がっていることもあるんです。それなのに若い頃に入った保険を何となく続けている場合、保険料が無駄になっているケースも見受けられます」
やっぱりそうなんですね(苦笑)。なんとなく、そうかなぁとは思っていたのですが、相談する人もいなくてズルズルと今日まで来てしまいました。具体的には何を考えれば良いのでしょうか?
「たとえば、お子さんが独立するまでの保障として必要な金額はいつまでか、医療保険や介護保障はどうするか、といった点をトータルで見直すことで、保険料の負担を減らせる可能性があります。すると、その分を投資資金に回すこともできるわけです」
実は結構な額の終身保険に入ってまして、解約したら「元本割れ」になるかも……と尻込みしています!これってダメです??
「終身保険の解約で元本割れになってしまうことがあるのも事実ですし、その一方で解約返戻金が戻ってくるというメリットもあります。そこはご契約の内容やお客様のライフプランに合わせて柔軟に判断したいところですね。無理に解約するのが正解とは限りません」
千田さん、僕、どこから優先順位を付けたらいいんでしょうか?
「むしろ重要なのは「どう運用に振り分けていくか」という視点です。保険を解約して、そのお金をすべて投資に回した方が良いというケースもあれば、保険は保険で最低限の保障を残しておきながら、浮いた保険料をコツコツ投資に回すというケースもある。そうやって全体のバランスを見直していくことが50代以降の“お金の戦略”ではポイントになりますね」
目から鱗すぎるというか、千田さんがいてくれて僕が一番助かっているような気がします(笑)
「お金の悩みを解消していくことが私の使命なので、そう思っていただけたら、こちらも嬉しいですよ!」
そもそも新NISAって「何歳まで積み立て続けるものなのですか?」定年したら終わりではないだなんて!
取り崩し方と保険のバランス、この2つが50代の資産形成の肝だということがよくわかりました。ところで、いざ取り崩すとなると、どの時点でいくら取り崩すのか、なかなか具体的にはイメージが湧きにくいですよね。一般的には退職金や年金が入るタイミングで大きな収入があったりしますが、その前後でどのくらいの資金が必要になるのかも人それぞれですよね?
「その通りで、そこが“最大のポイント”なんです。実は資産家の方でもお金が減るのって怖いんですよ。だからこそIFAとじっくり相談しながら、運用しながら取り崩すことのメリットを実感して欲しいと思っています。一般的に50代だと、まだまだ仕事を続けられるケースがほとんどでしょうし、ご家族の状況によっては大きな支出の時期も重なります。その一方で、自分自身の老後のための資金をきちんと確保していかなければならない」
はい、私も50代は子どもが独立する前だと思いますし、まだまだ働かなければなりません……。
「そこで『いつ、いくら取り崩すのか』『その後も運用は継続するのか』といった計画を、“一生涯運用する”という発想で考えるわけです。実際、寿命がどれだけ延びるかは分かりませんし、人生100年時代と言われる今、むしろ資産を切り崩しながらも、可能な限り資産寿命を伸ばす運用が求められるんです」
一生涯運用!その視点もなかったです。確かに私の両親や周囲の高齢者を見ても、70代、80代になっても預貯金の額を気にしている人は多いです。それなら資産を上手に活用しながら、少しでも増やしておきたいという考え方があっても自然ですね。
「しかもご存じの通り、公的年金だけでは老後の生活費をまかないきれない方も多いです。となると、自分で作る“第2の収入源”が必要になります。そこで活用したいのが投資による運用益です。働くのがしんどくなったり、収入が大きく減ってからはなかなか増やしづらいので、50代のうちに『投資を始めて運用しながら取り崩す』考え方を身につけることが大きな武器になるんですよ」
要するに「取り崩しながらの運用は必須だが、そのベストケースが一概には言えなさすぎる」ので
なるほど。「投資は始めたら基本的にずっと放置」というイメージが強かったんですが、実際には節目節目で取り崩しと再投資のバランスを調整する必要がある。それにはプロの知見や客観的な視点があったほうがいい、一人で思い切るのはかなり難しいのではないかと。
「そう思います。投資に慣れた、経験の豊富な方は『何も難しいことなんてない』『なにをそんなにガタガタ言ってるのか」と言うでしょう。しかし、新NISAは定期預金を崩すことすらドキドキするような、ごく普通の人たちが行う投資です。いざというときにどれから取り崩せばいいかなんて、自己判断するのは本当に悩んで悩んで辛いようなことではないかと思います。実際私がFPからIFAへ転身したのはこうした方からの相談を受けて『よりお客様に寄り添った提案をしたい』と考えたからです。IFAならばより中立的な立場で提案できるので」
みなさん、個々に事情が異なりますし、中立というのが安心材料につながるような気がします。
「特に50代以降の投資というのは、20代、30代の頃の単純な長期積立とは異なる複雑さがあります。保険の見直し、子どもの教育費、老後資金、退職金の運用、そして年金額の把握。こうした複数の要素が絡むため、一人で考えているとなかなか難しいですよね。そこを、IFAがトータルでサポートする意義は非常に大きいと思います」
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千田さんが提案する「運用しながら取り崩す」という方法は、これからなぜ重要になるのでしょうか? その辺りの思いについてお教えていただけますか?
「人生100年時代と言われる中、50代って本来まだまだ若い。とはいえ自分自身の老後も見据えていかなければならず、それに加えて親の介護など、多くの課題が重なる年代でもあります。だからこそ、一つの考え方として「運用しながら取り崩す」ことをぜひ取り入れていただきたい。それができれば、60代になったとき、70代になったとき、あるいは100歳に至るまで、自分らしいライフスタイルを保ちつつお金の不安を軽減できるはずです」
千田さん、今回は本当に貴重なお話をありがとうございました。私自身、これから投資を始めようとする上で背中を押してもらったように感じます。引き続きよろしくお願いいたします!
「ぜひ、50代という節目を、これからの人生を彩る大切なスタート地点だと捉えてください。投資は怖いものではなく、未来の自分への贈り物です。それを一緒に見つけていきましょう!」
お話/千田愛さん
IFA・ファイナンシャルプランナー。製薬会社MR、広告会社営業を経て投資運用会社で運用の基礎を学ぶ。育児による専業主婦時代を経てふたたび金融の世界に戻り、FPとして主に女性のライフプラン設計に寄り添う。IFAの資格取得後は人生トータルでのお金の使い方を主眼に、貯めるだけでなく「お金をよりよく使って生きていく」人生設計に寄り添う。
(取材・文/ライター・鵜飼慎太郎)