「Where has the storm gone. Where have I gone. Seems like I've finally turned into freedom」「All that I'm feelin’ now... is love」――アンビエントなSEに乗ってそんな彼の言葉が会場を満たしてゆくなか、フィールドからステージへと上ってスタートした1曲目は、先日ドロップされたばかりの新曲“Feelin’ Go(o)d”(先の言葉は、この曲のリリックの英訳でもある)。日常というストリートで舞い踊るように、カジュアルな服装に身を包んだダンサーとともに自由にステージを歩き、踊りながら、その歌声を空に響かせていく。
“Feelin’ Go(o)d”が終わった瞬間にピタッとステージセンターで動きを止め、そこから約66秒にもわたって微動だにすることなく、同じポージングで静止し続けた藤井。言うまでもなく、彼が敬愛するマイケル・ジャクソンの「The Dangerous Tour」オープニング、あの伝説の静止へのオマージュだろう。マイケルのブカレスト公演のように失神者が続出するようなことはなかったけれど、次々に湧き上がるオーディエンスの歓声と指笛がスタジアムにこだましていく。キーボードとベースのユニゾンによるフレーズから再び時が動き出し、“花”へ。“Feelin’ Go(o)d”と同じくA. G. Cookをサウンドプロデューサーに迎えて制作されたこの曲は、迷い惑いながらも、他の誰でもない自身の内にある花を信じ、探しにいこうという意志をしなやかに提示する歌だ。やわらかな歌声のなかにも確かなるパッションと祈りを滲ませながら朗々と歌い上げる様に、ライブ序盤にして早くも深く、深く惹き込まれていく。
「This is not my show, this is YOUR show. だからこんなふうに一緒に歌って欲しいんです」――そんなふうにしてオーディエンスのハミングを誘い、奏でたのは“ガーデン”。続く“特にない”ではクラップやフィンガースナップでの参加を呼びかけたのだけど、その際に「手拍子 or 指パッチンする度に、みんなの中のモヤモヤした気持ちとかネガティヴな感情が一つひとつ消えていくイメージを持ってやって欲しいんです。あなたのネガティヴを全部、日産スタジアムの空に投げて帰ってください」と語りかけ、藤井自身もステージセンター前に腰掛けてゆったりと歌い始めた。たとえば、ライブ序盤で熱く激しく盛り上げ、爆発的な熱狂を巻き起こすことによってオーディエンスの感情を解放させるという形もあるけれど、今回の藤井のアプローチはそれとは異なり、ソウルフルで伸びやかな歌と心地いいアンサンブルによって日々のなかで知らず知らずのうちに強張っていた身体と心を自然に解きほぐし、スーッと肩の力を抜くように心の扉を開かせていく――そんな感覚を覚えるライブ前半の組み立て方。それは、初のスタジアムライブとなった2年前の「LOVE ALL SERVE ALL STADIUM LIVE」(パナソニックスタジアム吹田)の時とも、また違った印象を与えるものだった。
「会いに行きます!」と言ってステージ上に建てられたガレージでヘッドセットを装着し、自転車にまたがってフィールドをぐるっと一周駆け抜けながら歌った、“さよならべいべ”で7万人のオーディエンスと開放的なコミュニケーションを果たした後、気づけばすっかりと夜の闇が濃くなってきたフィールドに、バウンス的なアプローチも導入されたファットなヒップホップ・ビートがドープかつ痛快に響くインタールードへ。リフレインされる「Where have you been? I’ve been looking for you」という言葉(“きらり”のサビの英語バージョン)に、やがて「CASTING CALL」というコールが重なっていく。今回のライブでも総合演出を務めた盟友・山田健人による映像も最高にクール。
10月からはシンガポールを皮切りに、8箇所9公演を回るアジアツアー「Best of Fujii Kaze 2020-2024 ASIA TOUR」を開催することを発表。昨年ピアノ1台で回ったツアーに続く2度目のアジアツアーとなる今回は、全会場アリーナへとスケールアップしての実施となる。近年の楽曲制作も含め、より様々なルーツやバックグラウンドを持つ人々とダイレクトなコミュニケーションを交わし始めている藤井。その経験を通して彼の表現がどんな広がりや深まりを見せていくのか、目を離すことはできない。