
腸内環境を整えると便秘やダイエットに効果的という話は周知の事実でしょう。しかし実は老化やアンチエイジングにも腸内環境が大きく関わっていることをご存じでしょうか。今回は京都府立医科大学大学院医学研究科 教授の内藤裕二先生に最新の老化研究と、老化を食い止める腸内環境について詳しくお聞きしました。
▶大腸がんは「内臓の老化」から始まる!?大腸がんは内臓脂肪の老化から始まる!?すべての病気の原因「老化そのもの」を止める最新医学とは
――昨今老化研究の分野では新しい領域「ジェロサイエンス」というものが登場したと聞きました。
従来は基礎的な老化研究と、病気ごとの臨床医学は別々に進められてきました。しかしジェロサイエンスという医学新領域では、すべての病気の根本原因である老化プロセスそのものを標的とし、がんや代謝疾患、運動器疾患などをすべて加齢関連疾患として遅延・予防・治療することを目標としています。ジェロサイエンスの登場によって、一つの症状や病気を抑え込んでも別の場所やタイミングで新しい不調や症状が出てくる病気のもぐら叩きから脱却し、老化スピードを遅らせることで健康寿命を延伸し、長く社会貢献を目指すことができると期待されています。
――何かしらの病気にかかったときに、大元の原因の一つが老化だったということもあるんですね。
そうですね。たとえば日本人女性の死因第1位である大腸がん。これは大腸の粘膜に発生する悪性腫瘍ですが、実は近年の研究で大腸がんは単なる大腸の問題だけではなく、内臓脂肪の老化が最初に起きていることがわかってきました。このように体の一部の老化が全身の臓器とも深く関わっている臓器連関という仕組みがあるため、病気を患った場所だけを注視しても解決できないこともあるのです。
▶体脂肪より恐ろしい「細胞レベルの老化」体脂肪率より恐ろしい?「細胞レベルの老け具合」と老化を早める“腸の乱れ”
――老化研究はここ数年で急速に進んでいるんですね。
そうです。よく実年齢とは異なる体の若さについて『体内年齢』と聞きますが、これは体重や体脂肪率、筋肉量など体の構成成分が同年代の平均値と比べてどの程度か示したものです。しかし最新の研究では血液検査によって遺伝子の状態(DNAメチル化)から細胞レベルの老化を科学的に測るエピゲノム年齢というものも2013年に登場しています。簡単な採血でどの臓器がどのくらい老化しているのか、生物学的年齢は何歳なのかがわかる時代になってきました。そしてこの生物学的な老化を細胞レベルで測定することで細心の長寿研究で裏付けられた効果的な若返り方法を実践することが可能になっています。
――ほかに老化を測る指標のようなものはあるのでしょうか。
2013年にオランダで生み出されたAGING HALLMARKS(エイジングホールマークス)というものがあります。これは老化の根本的なメカニズムを特定する枠組みで、2013年に9つでしたが、2023年には12の老化要因として定義づけられました。極めて複雑な老化研究において、研究者や科学者が使用する共通言語となり、このエイジングホールマークスによって老化研究はさらに加速しています。
なお12の項目はミトコンドリア機能障害や細胞老化、栄養感知の調節不全などさまざまあり、それぞれ関連し、互いに影響し合って全身の老化を進行させます。中でも私が注目しているのが2023年に新しく追加された項目の一つであるディスバイオシス(腸内の細菌バランスが乱れ、善玉菌と悪玉菌の比率が大きく偏る状態)。私が2017年から長寿研究をしている京都府の京丹後市の高齢者においても、腸内環境が大きく関わっていることがわかってきました。
▶長寿の高齢者が共通して持っているもの健康長寿の高齢者が多く持っている“最強の善玉菌”とは?毎日の食事と行動にカギが
――京丹後市を含む丹後地域は、100歳以上の高齢者の割合が全国平均の約3倍に達する有数の長寿地域ですよね。
はい。京丹後と東京の65歳以上の高齢者を比較し、最新のDNAメチル化プロファイル解析をすると京丹後の高齢者はエピゲノム年齢が明らかに若いことがわかりました。また京丹後の高齢者の持っているビフィズス菌を研究すると、善玉菌であるビフィズス菌を多く保持しています。赤ちゃんの頃は腸内細菌の大部分を占めるビフィズス菌は加齢に伴い減少していくのが一般的。しかし京丹後の高齢者の腸内には炎症を起こす菌が少なく、健康を維持する善玉菌や酪酸など短鎖脂肪酸を作り出す菌が優位に保たれていることがわかりました。また認知機能がしっかりしている人ほどビフィズス菌が多かったです。
――その要因は何なのでしょうか。
調査研究では京丹後の高齢者は主に野菜、海藻、豆、芋などを食物繊維を豊富に含む食材を多く食べているようです。やはりこれらの発酵性食物繊維や水溶性食物繊維がビフィズス菌や酪酸菌のエサとなっているのでしょう。逆に肉など動物性タンパク質はあまり食べず、豆や魚など日本人が昔から親しんできた食生活をしている高齢者も多いです。
腸内環境は食事の栄養で変化するわけですが、外的なストレスが腸に影響を与え、善玉菌の減少や悪玉菌の増加といった腸内細菌叢の乱れであるディスバイオシスを引き起こすとも言われています。また腸内環境の果たす役割は認知症など脳の健康においても非常に大きいことも明らかになっていますよね。京丹後の高齢者は日本食中心の食生活、ストレスを緩和する運動や地域コミュニケーションによってビフィズス菌や酪酸菌などの善玉菌を豊富に含む腸内環境を保持しているからこそ、体も脳も若く健康で長生きできているというのが現在までの見解になっています。
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