スアンを演じたハン・ヘインは、“韓国映画界の秘宝”とも称される実力派。日本での公開作は少ないが、インディーズ映画を中心に多彩で印象的な役柄を演じ、その確かな演技力が認められている。
本作では、ソルに心を寄せながらも若さゆえの戸惑いや葛藤によってすれ違ってしまう高校時代から、時を経て大人になった姿までを繊細に演じ分けており、ユン・スイク監督は「スアンの視線に込められた強い感情が、観客に深い印象を残す」と絶賛している。
波のように砕けやすい脆さと、海のように深い一面を持つスアン俳優を夢見ながら、ぶっきらぼうで率直な性格ゆえに周囲と馴染めず、高校の演劇にも一度も出演できていないスアン。まっすぐな性格で口数も多くない彼女には、思春期ならではの感情の揺れ動きを繊細に表現することが求められた。
自身の演じたスアンという役についてハン・ヘインについて、「スアンは自分に訪れた名もなき感情に迷いながらも、結局は全てと向き合い受け入れる人物です。波のように砕けやすい脆さを持つ一方で、海のように深い一面も備えているからこそ、その感情と向き合うことが可能だと考えました」と、その二面性を語る。スアンは短髪にパンツスタイルの高校時代から、大人になって人気俳優になり、学生時代のソルのようにロングヘアにスカートを履くことが多くなる。
この見た目の大きな変化は、外部環境の変化によるものなのか、あるいは心の奥底で追い求め続けているソルに、無意識のうちに寄って行っているのか。見た目とともに、スアンの精神的な芯も変化したのだろうか。「スアンの容姿は社会が言う女性的な姿に変わりましたが、本質は変わったことがありませんでした。スアンは元々そうした定義にとらわれない自由な人物だと考えていました。学生時代にはその定義に抵抗したくて髪を切り、俳優として活動するようになってからはその世界に溶け込むために自分の姿を飾りましたが、後には自分の姿を飾らなくても自分として存在する方法を見つけたと思っていました」。
そんなスアンを演じるにあたって気をつけた点と、ハン・ヘイン自身との共通点を聞いてみた。「キャラクターが対象化されないよう注意しました。ひとつの固定されたイメージに閉じ込めたくなかったのです。外面の変化も内面の変化も、ひとつの姿だけで語れるような人物にはしたくありませんでした」とハン・ヘイン。
「だからこそ、多彩でありながらもひとつの呼吸でつながり、変化してもその人物の根っこは揺らがない、そんな存在であってほしいと思いました。そして、そのキャラクターの気質は、私自身にもどこか似ていると感じています」と語った。
高校時代の感情は愛だったのか?「まるで哀悼のような愛」
思春期の揺れる想いが「友情」と「恋愛」の狭間ですれ違い、自分の感情の定義に迷っていたスアン。多くの人が共感できるだろう、その曖昧な感情の扱いを、ハン・ヘインはどう捉えていたのか。
「ソルとスアンは、明らかに2人だけが理解できる部分を互いに感じ取ったのです。曖昧でありながら強烈で、果てしなく蘇り、より深まっていった愛を経験したと感じます。まるで哀悼のような愛です。学生時代の2人は未熟でしたが、2人の愛を高校生の頃の感情だけで語ることは難しいと感じます」と話す。ソルへの想いを忘れられずにいるスアンへ、いま伝えてあげたい言葉は? との問いには、「冷たい吹雪を抱きしめた君の勇気のおかげで、私は君と出会い、自分自身について多くを知ることができた。ありがとう。私たちは、ありのままの自分でいてもいいのだ」と話した。
ハン・ヘインが語る初共演ハン・ソヒの魅力。本作の象徴的なシーンの思い出とは初共演となったハン・ソヒとのスクリーン上での鮮やかなケミストリーは、この作品の一番の魅力と言っても過言ではない。ともに作品を作り上げる中で、撮影当時はまだ新人時代だったハン・ソヒにどのような印象を持ったのか、端的に表現してもらった。
「情熱的で、多才な魅力を持つ俳優だと感じました」とハン・ヘイン。
それでは、韓国で“次世代のシネアスト”として注目を集めるユン・スイク監督との仕事はどうだったか。「監督は、非常に熱心に映画の目的地を最後まで見つけ出しました。映画という仕事と映画の中の登場人物たちを愛する気持ちが強く伝わってきて、より一層心を込めて仕事に取り組むことができました」と打ち明ける。
ユン・スイク監督が冬の海で雪が積もった白い砂浜に立ち、見知らぬ女性たちがサーフィンをしている光景を目にした瞬間から構想が始まった本作は、「雪」と「サーフィン」が印象的に登場する。
激しい波が打ち寄せる極寒の海へと自ら足を踏み入れ、過酷な条件の中での撮影に、ハン・ソヒとハン・ヘインの2人は果敢に挑み、映像にリアリティを与える名シーンが完成した。
「私は吹雪の撮影で初めてサーフィンに触れましたが、その時にすっかり夢中になりました。休みの日にも海に入るほどです。いまでもずっとサーフィンを続けています」と語った。突然の降雪によるスケジュール変更が頻繁に発生するほど、撮影が大変だったという。
「現場では全員が集中してその場面を作り上げるというエネルギーが重要でした。波の音で聞き取りにくい互いの合図を聞き取るため、手振りや身振りで意思疎通を図ったことや、カットサインが出た後、キャスト、スタッフみんなで抱き合い体温を分かち合ったことが記憶に残っています」とふり返り、「本当に寒かったけれど、あのエネルギーのおかげで、どの現場よりも熱かった思い出として残っています」と話した。
最後に、日本の観客に向け「日本の観客の皆様にお会いできて、とても胸が高鳴っています。美しい自然と音楽、そしてソルとスアンの物語が、雪結晶のように皆様の心に届きますように。ありがとうございます」とメッセージを贈った。「いつも考えてたよ」凍える山小屋で愛が触れ合う本編映像
さらに、高校時代に“友情”と“恋愛”の狭間で揺れ動きすれ違ってしまったソルとスアンが大人になって再会し、想いを伝え合う本編映像も解禁。
2人が雪の中でじゃれ合うシーンから始まるこの映像は、寒さに凍え移動した山小屋の中で、1つの毛布に身を寄せ合い、当時伝えられなかった想いを伝えるロマンチックな映像となっている。
『12月の君へ』は渋谷ホワイトシネクイント、kino cinéma新宿ほか全国にて公開中。












