本作は明治時代、武士の時代が終わった世の中を舞台に、怪談話が好きな、ちょっと変わった女の子・松野トキと外国人の夫・ヘブンが何気ない日常を歩む夫婦の物語。
堤が演じる雨清水傅は、松江藩に名をはせる上級武士の出身で、文武両道のエリート。松江で知らない人はいないほどの人格者で、変わりゆく時代の中、多くの没落士族に手を差し伸べようと尽力する。親戚のトキを幼い頃から可愛がってきたのだが…。

――雨清水傳はどんな役?
堤最初に台本を読んだときにタエ(北川景子)さんが「傳」と呼び捨てだったので、あれ? 夫婦役と聞いたのに? と思いました。タエさんの方が家柄が上なので呼び捨てで、傳はタエさんに頭が上がらないんですよね。奥さんといるときは江戸時代、仕事をしているときは明治時代の感覚です。佐藤浩市さんには若い頃にはじめてお会いしたので、今お会いしても直立不動になってしまうんですよ。だから、最初に出会ったときの関係性から態度を変えられない傳の気持ちはよくわかります。
雨清水家は上級武士でしたが傳は自ら髷(まげ)を切るような革新派でもあり、商売を始めて時代に乗っかっていこうと前向きに働いていたと思います。武士だった人がこれまでちょっとさげすんでいた商人になるのは相当勇気のいることだったはずですが、そうしないと生きていけなかったのでしょうね。
ただ、織物工場に部下のお嬢さんたちを呼び集めてノルマもなしに仕事をさせていたのはある種、救済のようなもので、商売人としては非常にぬるい考え方。その結果、世の中の激しい動きについていけず、タエさんに苦しい思いをさせてしまったと思います。

「当て書きしたの?」高石あかりはおトキにぴったり
――傳の目におトキはどう映っていたのか?演じた高石あかりの印象は?
堤雨清水家は男の子3人だったので、松野家に養女に出したとはいえ、血のつながった女の子のおトキはやっぱり非常に可愛いかったのだと思います。三之丞(板垣李光人)たちに対しては「背中を見とけ」という接し方でしたが、おトキへの傳の振る舞いは単なる親切やいい人というレベルではなかったですよね。
おトキの非常に前向きでエネルギッシュなところが高石あかりさんに本当にぴったりで、当て書きしたの? と思ったくらいです。高石さんの人との距離をスッと縮められるところや、元気で明るいところがおトキそのものでした。朝ドラのヒロインというと、どこかステレオタイプになる部分がどうしてもあるじゃないですか。でも、ふじきみつ彦さんの脚本にはそういう部分がないのも魅力です。

堤傳は志半ばで死んでしまうんですよね。人生としてはがんばったと思いますが、タエのこともおトキのことも、すべてにおいてやりきれなかった辛さを抱えたままだったと思います。
息子たちに対しては「なんとか生きていってくれ!」という感じだけれど、とにかくタエさんがこれからどうなるのか心配だったんじゃないかな。ずっと侍女がついていて自分でふすまを開けたことすらない、生活していくすべを知らない彼女が生活していかなければいけないのがすごく心配で、本当に死んでも死に切れんという気持ちでした。
おトキに関しては、血はどうあれ松野家で育ったので「この子は大丈夫、たくましく生きていけるだろう」と、たぶん死ぬ間際も思っていたと思います。雨清水家で育てていたら、もっと堅苦しい生き方になっていたかもしれません。松野家で育ったからこそ時代を生き抜ける力を持てたのでしょうね。

堤究極に大変なことが起きてもなぜか悲劇という感じにはならず、乗り越えていく姿に元気をもらえるのがふじきさんの脚本です。時代の転換期に翻弄される登場人物たちが、強く、そして楽しく生きる姿をこの先もどうぞ楽しみになさってください。たまに司之介(岡部たかし)さんにイラッとすることもありますが(笑)、怒りながらも笑ってしまう作品になっていると思います。
また、撮影していて「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」のような照明もとても印象的でした。照明をテカテカに当てず、セッティングに時間をかけて暗いところは暗くしていたんです。ななめの光しか入ってこない日本家屋らしさが表現されていると思いますので、ぜひそこにもご注目ください。
連続テレビ小説「ばけばけ」は月曜から金曜8時~NHK総合ほかにて放送中。
土曜は1週間のふり返り