【小学校受験】志願倍率トップ10は?人気校にみる、今どき家庭が求める教育 | NewsCafe

【小学校受験】志願倍率トップ10は?人気校にみる、今どき家庭が求める教育

子育て・教育 リセマム/教育・受験/未就学児
【小学校受験】志願倍率トップ10は?人気校にみる、今どき家庭が求める教育
 2025年度の小学校受験では、人気校が名門大学への進学路線を提供し、多様な教育観が反映されているという。学び方重視や体験型教育に家庭が支持を寄せ、併願のしやすさも志願倍率に影響を与えている。長年、幼児教育に携わり、2000人以上の親子の小学校受験を指導してきた大原 英子氏に小学校受験の最新状況について詳しく解説してもらった。

2025年度 小学校受験志願倍率トップ10は?
 中学受験の過熱、大学入試改革への不安、そして「できるだけ早く受験競争から解放させたい」という親心…。近年の首都圏における小学校受験では、こうした親世代の本音が、学校選びに色濃く反映されている。

 今回は、2025年度の人気校データをもとに、親たちが小学校受験に託す願いと戦略、そして教育観の変化を読み解いていく。そこには小学校選びにとどまらず、教育の出口戦略まで見据えた教育観が浮かびあがる。

 2025年度の志願倍率トップ10には、慶應義塾幼稚舎、早稲田実業学校初等部など、名門大学までの進学ルートを持つ一貫校がずらりと並ぶ。しかし、その一方で、「中学受験に最適化された私立小学校」や、「探究・体験を重視した新興校」など、従来の価値観にとらわれない選択肢も台頭している。

2025年度 小学校受験志願倍率
  志願者数定員志願者倍率 1東京農業大学稲花小学校(世田谷区)9957213.8 2慶應義塾横浜初等部(横浜市)138110812.8 3東洋英和女学院小学部(港区)6425012.8※内部進学含まず5桐朋学園小学校(国立市)7706811.3 4慶應義塾幼稚舎(渋谷区)160014411.1 6早稲田実業学校初等部(国分寺市)119110811.0 7桐朋小学校(調布市)4984610.8※内部進学含まず8学習院初等科(新宿区)720809.0 9洗足学園小学校649808.1※内部進学含む10昭和女子大学附属昭和小学校777968.1※内部進学含む
志願倍率トップ校に見る、親たちの本音
 2025年度の小学校受験における志願倍率トップ10を見渡すと、慶應義塾幼稚舎、慶應義塾横浜初等部、早稲田実業学校初等部、学習院初等科など、有名大学までの一貫校が並ぶ。これらの学校に共通するのは「名門大学までの進学ルートが用意されている」という安心感と、中学・高校・大学でもトップクラスの偏差値を誇る教育環境だ。

 背景にあるのは、親世代が抱く“受験回避”への強い願望である。

 「小学校で受験を終えれば、その後の受験戦争から解放される」。
このような発想は決して珍しくない。特に中学受験が過熱する首都圏では、小学校受験によって小学校低学年から始まる中学受験を回避する段としてとらえる家庭が増えている。また大学入試改革の影響により中学受験においても一貫校の人気が高まっている。今後の受験の不安が一貫校人気に拍車をかけている。

「エスカレーター」は今や昔 「内部進学」も安泰ではない
 ただし、そうした一貫校に入ったからといって、全員が無条件で大学まで進学できるわけではない。近年では、内部進学においても一定以上の学業成績や生活態度が問われるようになっている。

 背景には、「中学受験組」と「内部進学組」との学力差が、進級後の授業運営や校内の学習環境に影響を及ぼすケースが増えてきたことがある。かつての「一貫校はエスカレーター式。入ってしまえばのんびり過ごせる」というイメージとは、今では大きく乖離しているから注意が必要だ。

「こんなに勉強が必要だなんて。一貫校はもっと楽なのだと思っていた。」慶應義塾横浜初等部や、早稲田実業学校初等部の保護者からはこのような声も聞かれている。

一貫校といえども「学び続ける力」が求められる時代へと変化しているのだ。

中学受験のための「小学校受験」という新たな戦略
「受験回避」を目的とする家庭が多い中、異なる方針で存在感を示しているのが、2025年度志願倍率9位の洗足学園小学校である。同校は、「全員が中学受験をすること」を標榜し、いわば“中学受験のための私立小学校”という位置づけだ。

 洗足学園小学校の女子には内部進学ルートもあるが、2025年度は39名中、内部進学できたのはわずか7名。5倍以上の倍率となっており、もはや内部進学というより受験そのものだ。

 それでも洗足学園小が高い支持を集めているのは、中学受験への手厚いサポート体制が整っているからだろう。算数では中学受験レベルの思考力を育てる授業が行われ、「日記漢字」と呼ばれる独自の国語学習法や、理科では実験中心のカリキュラムが展開されている。単なる「詰め込み」ではなく、探究型学習と受験準備の融合が図られている。

 さらに、同校の生徒は中学受験を“みんなで挑戦する”という環境で切磋琢磨することができる。通学時間や家庭の負担を考慮して、公立小学校からの中学受験を選ぶ家庭も依然として多いが、洗足学園小では「周りは遊んでいるのに自分だけなぜ塾に行くのか」などの疑問は起こりにくい。平日の大半を過ごす学校生活において、学校そのものが受験に最適化されている環境は、時間効率と精神的負担の軽減という面でも有利だ。

 「中学受験のための小学校受験」一見矛盾したように感じるが、「小学校から中学受験に最適な環境を整える」という合理的な教育戦略でもある。

小学校選びは「体験」を重視する傾向へ
 近年の小学校受験では、進学実績やブランド志向とは異なる、新たな価値観が台頭しつつある。その中心にあるのが、「体験型」や「探究型」の教育を重視する私立小学校の存在だ。知識詰め込み型の学習から脱し、子供自身の好奇心や主体性を育む環境が、保護者の支持を集めている。

 2025年度、志願倍率1位の東京農業大学稲花小学校は2019年4月開校の新興校だ。稲花小学校の人気の背景には、東京農業大学のリソースを活かした実践重視の教育プログラム「稲花タイム」の存在がある。

 「稲花タイム」では、子供たちが田植えや稲刈り、野菜の栽培、動物の飼育や観察、料理や実験まで、季節と自然に寄り添った多彩な体験活動に取り組む。活動は、東京農大の世田谷キャンパスだけでなく、一般の生産者の畑などでも行われており、農大の大学教授や専門研究員を招いた授業が行われている。大学教授の授業は、小学生には難しいのではないかと心配になるが、小学校低学年からさまざまな質問が飛び交うという。これも10倍以上の倍率を突破してきた子供たちだからこそ成り立つ授業なのかもしれない。

 こうした日常的な自然科学・食育体験を通して、子供たちは五感を総動員しながら、“教科書では出会えない学び”を自らの手で掴み取っていくのだ。

 また、稲花小学校は給食の時間にも日本各地や世界の食文化、また環境や流通にも視野を広げている。2025年5月は、ウクライナや兵庫県などに焦点をあて、郷土料理が給食で提供されている。毎回給食時に、食材や食文化の説明があるというから手が込んでいる。単なる食事の時間にとどめず、学びへとつなげるこの取り組みは、公立校では実現が難しい私立ならではの教育手法だ。

 さらに、稲花小学校は英語教育にも注力しており、1年生から毎日1時間の英語授業を実施している。ネイティブスピーカーの教員が常駐し、休み時間にも英語で会話ができる環境が整えられている。このように稲花小学校では、「体験」「学習」「国際性」のすべてが有機的に組み合わされており、子供の知的好奇心と非認知能力を同時に育てる場として、多くの家庭から注目を集めているのだ。

「学力」より「学び方」へのニーズシフト
 3位の東洋英和女学院小学部は、2022年に小学部長となった吉田先生により多くの改革が行われている。これまでも姉妹校である韓国の梨花女子大学附属初等学校との交流が行われていたが、2024年度より、英語圏との交流として、オーストラリアでの国際交流プログラムがスタートしている。2025年度からはスクールセラピードッグを校内に取り入れるなど、さまざまな取組みが行われている。

 また桐朋学園小学校・桐朋小学校は、体験から学ぶことを軸とした教育を大切している。桐朋学園が運営する両校は、自然の中での体験活動を通じて、子供たちの主体性や想像力、表現力を育てることに重きを置いている。

 たとえば、校内外での自然観察や野外活動、ものづくりや演劇といった実体験や教科を横断した活動を通じて、子供自身が「なぜ?」「どうして?」を考える力を養っている。これらの学校に共通しているのは、算数・国語・理科・社会などの教科学習ではなく “学ぶ力そのもの”の育成を重視している点である。これは、現代社会の子供を取り巻く環境の変化とも密接に関係している。

 たとえば、都市部の公園では手入れされた自然があり、子供の遊び場であるにも関わらずボール遊びが禁止されている。公園にいてもゲーム機に没頭する子供たちの姿が珍しくなくなった。結果として、「友人と関わり、体験から学び、探求していく」ような、本来なら日常にあるべき体験を、小学校で提供している学校が人気となっているのだ。

昭和女子大学附属昭和小学校の挑戦
 この潮流を象徴するもうひとつの例が、昭和女子大学附属昭和小学校の改革である。同校は2024年度に「国際コース」「探究コース」を新設。語学力や探究心といった非認知能力の育成にシフトし、グローバルな視野を持つ人材の育成を掲げている。

 こうした大胆な教育転換は、明確に数字にも表れている。2020年度入試までは倍率2倍弱で推移していたが、コース新設以降、志願者数は急増し2020年度約5.5倍となり、2024年度は約9倍、直近の2025年度は約8倍となっている。時代のニーズを捉えた学校」として注目を集めている。

 現代の私立小学校は、「学力を伸ばす場所」から「学びの本質を育む場」へと進化している。知識やスキルはもちろん、どう問い、どう探り、どう伝えるかという“生きるための力”を育てる場として、小学校というステージが再定義されているのだ。

小学校受験の“倍率”に潜むもうひとつの要因…併願のしやすさが人気を左右する
 私立小学校受験において「人気校」とされる学校の志願倍率には、教育内容や進学実績だけでなく、「試験の受けやすさ」が影響していることをご存知だろうか。実は、受験日程の柔軟さや他校との日程重複の少なさが、併願のしやすさという形で志願者数に大きく関係している。

 その典型が、2025年度の志願倍率1位となった東京農業大学稲花小学校だ。11月1日から4日の間で受験日を自由に選択できる“日程分散型”を採用しており、都内有力校との併願がしやすい。志望校に応じた試験日のスケジュール調整が可能なため、併願しやすく、結果として志願者数が増えるということになる。

 慶應義塾横浜初等部も、東京都内の主要校が一段落した後の11月中旬~下旬に入試を設定しており、他校との日程重複を回避できる。「試験が重ならないならせっかくなら慶應にレンジしてみよう」と本命校とは別枠でチャレンジしやすい学校となっている。

 また、東洋英和女学院小学部においても、雙葉・白百合・聖心といった11月1日に集中する人気女子校と試験日が重ならない日程となっており、女子校志望の併願先として選ばれやすい。こうした日程的な “受験のしやすさ”が、実質倍率の上昇を後押ししている構造があるのだ。

 倍率には“教育の魅力”だけでなく、“受験のしやすさ”が影響しているという現実があることも付け加えておきたい。貫校の人気は今後も続くだろう。ただし、それは「楽だから」ではない。「より深く、長く、子供の成長と向き合う」選択肢としての価値が、いま再評価されているのだと思う。

 今回は人気ランキングを取り上げたが、人気校に入ったらから子供の人生が安泰というわけではない。その学校で何を学び、誰と出会い、それをどのように活かしていくか、が重要だ。小学校受験を目指す家庭は、倍率やブランドではなく、子供の個性を大事にし、家庭の教育方針と合致しているのか、さらに将来まで見据えてどのような教育を受けさせたいか、を考えて学校選びをしてほしい。

【執筆者】株式会社コノユメ 代表取締役 大原 英子
東京大学卒業後、大手通信会社勤務。その後、自身の母親が30年続けている受験絵画教室のメソッドを活かし、2011年小学校受験専門幼児教室設立。小規模教室ながら、慶應義塾幼稚舎42名、早稲田実業学校初等部39名、慶應義塾横浜初等部46名(2022年度実績)など、難関校に多数合格者を輩出。2022年5月に株式会社コノユメを設立。苦しい子育てをクリエイティブでエキサイティングな子育てに変えるべく奮闘中。自身も二児の母。
《編集部》

特集

page top