モラハラ・夫婦問題カウンセラーの麻野祐香です。
モラハラ夫は、自分に都合のよい理屈をこしらえて、相手を責め、正当化しようとします。浮気もそのひとつです。
本来、浮気をした側が悪いのは明白です。しかしモラハラ夫は、「妻のせいで浮気せざるを得なかった」という歪んだ理論を展開します。自分の行動は決して責められるべきものではなく、むしろ「仕方がなかった」「自分も被害者だ」と考えているのです。そして、妻に罪悪感を抱かせ、最終的には「確かに私が悪かったのかもしれない」と思い込ませる、そんな心理操作を平然と行います。
今回ご相談いただいたEさんも、まさにこのような状況に苦しんでいました。
夫の態度の変化とモラハラの始まり
Eさんの夫は、一見穏やかで社交的な人物でした。友人や職場では愛想よく振る舞い、「家庭的な良き夫」として評価されていました。ところが、家庭の中ではまったく別の顔を見せていたのです。
結婚当初は、そこまで酷いモラハラはなかったといいます。しかし、子どもが生まれ、生活が子供中心になった頃から、夫の態度は徐々に変わっていきました。
「俺の世話をしなくなった」 「女としての魅力がなくなった」 「家の中がつまらない」
こうした言葉とともに、暴言が増え、Eさんが言い返すと、
「やっぱりお前は俺のことなんてどうでもいいんだな」「浮気してもお前のせいだ」
といった言葉が返ってくるようになりました。家事や育児に追われ、心身ともに疲れきっていたEさんにとって、「浮気」という言葉は深く突き刺さりました。
モラハラ夫が浮気を正当化する背景
モラハラ夫が浮気を正当化する背景には、「自己愛の歪み」と「責任転嫁の傾向」があります。
彼らは、「自分を特別な存在」だと思い込んでおり、「俺は魅力的だから複数の女性に愛されて当然」「普通の男とは違うから、浮気くらい許されるべき」と考えています。これはいわば、「特権意識」の表れです。
さらに、自分の非を認めず、「お前が俺を大切にしないから仕方なかった」「本当は浮気なんてしたくなかった。でも、お前が冷たいからだ」と、すべてを妻のせいにします。これは典型的な責任転嫁です。
そして極めつけは、妻を混乱させ、罪悪感を抱かせるという手法、いわゆるガスライティングです。「お前が疑うから夫婦関係が壊れる」「お前のせいで俺は満たされないから浮気したくなる」などと、まるで被害者のような顔をして話します。
このようにモラハラ夫は、浮気の責任を妻に押し付け、自分を正当化しようとするのです。
浮気発覚と責任転嫁
ある日、夫のスマホに女性の名前とハートマークのついた通知が表示されました。驚いたEさんが問い詰めると、夫は逆ギレして否定。それでもEさんは耐えきれず、翌日には実家に帰りました。すると、焦った夫はEさんの実家を訪れ、両親の前で浮気を認め、土下座して謝罪しました。
「もう二度としない。本当に反省してる。離婚だけは考えないでくれ」
涙ながらに訴える姿に、Eさんの父親は「こんなに反省しているんだから、許してやりなさい」と諭しました。Eさんは、「次に浮気をしたら即離婚する」と夫に告げ、いったん家へ戻りました。しかし、帰宅後、夫は独り言のように呟きました。
「浮気はお前のせいだ」 「家が居心地悪いから、外に癒やしを求めただけ」
反省どころか、まるで自分が被害者であるかのような言い分でした。Eさんは悔しさと怒りを感じながらも、「私にも悪いところがあったのかも」と考えてしまっていたのです。
なぜ「私にも悪いところがあったのかも」と思ってしまうのか
Eさんのように、自分が被害者であるにもかかわらず、「もしかして私が悪かったのかも」と思ってしまう女性は少なくありません。そこには、モラハラ特有の心理的な操作が関係しています。
まず、夫による責任転嫁によって、「お前が悪いから浮気した」というメッセージを繰り返し刷り込まれることで、罪悪感を抱かされます。本来なら非がないにもかかわらず、「自分にも落ち度があったのでは」と思わされてしまうのです。
また、長期間モラハラを受け続けると、自己肯定感が下がり、自分を責めやすくなります。否定されることに慣れてしまい、「私がもっと努力すれば…」と考えてしまうようになるのです。
こうしてモラハラ夫の支配は、無自覚のうちに続いていきます。
本編では、「浮気はお前のせいだ」と責め立てるモラハラ夫に、罪悪感を植え付けられたEさんが、気づけば、自分を責めることでしか心の均衡を保てなくなっていたという状況についてお話しました。
続いての▶▶「いつか必ずこの家を出てやる」モラハラに支配されながらも、私が守り続けた決意は
では、「もうこのまま終わりたくない」と思ったEさんが、モラハラから抜け出すために決めた「ある覚悟」と、その後の日々についてお話しします。