モラハラ・夫婦問題カウンセラーの麻野祐香です。
夫のモラハラに悩む方の中には、夫婦の関係の中で無理な要求を受け、心身ともに深く傷ついてしまうケースもあります。
夫婦であっても、相手の意思を無視した行為の強要は許されるものではありません。それは、場合によってはDVとされることもあります。
今回は、そうした苦しみから勇気を振り絞って抜け出したTさんの体験をご紹介します。
いつの間にか、夫が恐怖の存在になっていた
「結婚前の夫は本当に優しかったのです。些細なことで笑い合い、一緒にいるだけで幸せを感じていました。でも、結婚して半年ほど経った頃から、少しずつ夫の態度が変わり始めました」
Tさんは、夫から「その服は俺好みじゃない」と言われたり、スマホを見るたびに「誰と連絡を取ってる?」と詮索されたりするようになったのです。
そして次第に、夫の言葉は命令のようになっていきました。
「外で男に愛想を振りまくな」
「俺の言うことだけを聞け」
もちろんTさんは外で他の男性に愛想を振りまいたりはしていません。しかし、夫は不機嫌になったり、舌打ちをしたり、ため息をつくことが増えていきました。ときには物を乱暴に置いて威圧してくることもありました。Tさんは、直接手を上げられたわけではないにせよ、そのような言葉や態度だけでも胸が締めつけられるような怖さを感じていました。
そして、最も恐怖を感じたのは、夜でした。夫は「夫婦の営みは妻の務めだ」と当然のように言い、Tさんの気持ちを考えずに求めてきました。「疲れている」と伝えても、「俺のことが嫌いなのか」と責められ、拒めば怒り出し、壁を蹴るなどして暴れることもありました。
怖くて、Tさんは何も言えなくなっていきました。
無理に応じるしかない夜が続くたびに、心がすり減っていくのを感じました。愛されているという実感は、もうありません。ただ、夫の機嫌を損ねないように過ごすことだけを考えていました。
「このまま一生、こんな日々が続くの?」
そう思うたびに、息が詰まりそうになりました。
夫婦間でも、営みを強要することはDVとみなされる
「夫婦だから応じるのが当然」
「結婚した以上、拒否する権利はない」
こうした考え方は、今でも根強く残っています。しかし、どんな関係であっても本人の意思に反して無理やり求めることは、暴力であり、許されるものではありません。「性的DV」は、結婚しているかどうかに関係なく、相手の心と体を深く傷つけるもの。これは、決して見過ごされてはいけない問題です。
かつて日本では「夫婦生活は義務」と考えられていました。しかし、現在では同意のない性交渉は、夫婦間であっても性暴力とみなされます。
では、具体的にどのような問題があるのでしょうか。
法律的な問題
日本の刑法では、無理やり性交渉を強要することは、夫婦であっても性犯罪(準強制性交等罪)に該当する可能性があります。また、DV防止法の対象にもなり、被害者は保護命令を受けたり、シェルターに避難することも可能です。
このように、法的にも夫婦間の同意のない行為は決して許されるものではありません。
精神的ダメージの問題
本来、夫婦の営みはお互いの愛情と信頼に基づくものです。しかし、強制されることで「支配と服従の関係」になり、被害者は大きな精神的負担を抱えることになります。
・自分の体が「モノ扱い」される感覚
・逆らえない状況が続き、心理的に追い詰められる
・「抵抗しても無駄」と思い込み、無気力になる
こうした状況が長く続くと、「学習性無力感」に陥り、最終的には精神的に大きなダメージを受けることもあります。
なぜDV夫は妻の意思を無視してしまうのか?
では、なぜ一部の夫は、妻の気持ちを考えずに強要してしまうのでしょうか。その背景には、歪んだ価値観や支配欲が影響していることが多いと言われています。
歪んだ価値観
「結婚した以上、妻には応じる義務がある」という古い考えが根底にあり、妻からの拒否を「自分の存在を否定された」と受け止めてしまうことがあります。その結果、怒りや不満につながるのです。
支配欲とコントロール願望
性的DVを行う夫の多くは、「妻を自分の支配下に置きたい」という強い願望を持っていると言われています。
まず、「相手の意思を無視し、自分の力を誇示したい」
そして「命令に従わせることで優越感を得たい」
さらには、拒否されることで「男としての自信を失うのが怖い」…。こうした心理が影響し、妻の気持ちを尊重せず、自分の欲求を優先してしまうケースが少なくありません。
本編では、Tさんの経験をもとに「夫婦であっても、同意のない性行為は法的にも精神的にも深刻な問題である」ということ、そして夫の心理についての解説をお伝えしました。
続いての▶▶「心が崩壊していくのを感じ、ついに『逃げる』ことを選択。そのとき夫が送ってきたLINEの内容は」
では、心身ともに限界をむかえたTさんが「夫から逃げる」というという選択をし、夫と対峙するようすをお伝えします。