その名はゴヤの『裸のマハ』にちなむと伺いました。森美術館やMoMAでの勤務ののち、小説家に転身した異色の経歴の持ち主、原田マハさん。美術への造詣が深く、有名絵画をモチーフにした小説やミステリも数多く発表しています。
そんなマハさんの代表作のひとつ、駆け出しスピーチライターの快進撃を描いた『本日は、お日柄もよく』が11月に特装版で発売されました。同時に新刊『FORTUNE BOOK 明日につながる120の言葉』も発売。
どちらも「言葉」と強く結びつく2冊に込めた思いを伺いました。まずは『FORTUNE BOOK 明日につながる120の言葉』から。
TOP/原田マハさん(C)ZIGEN
ただ心の動くままに降りてきた120の言葉たち
――『FORTUNE BOOK 明日につながる120の言葉』は、マハさんがプロデュースした「フォーチュンクッキー」がベースと伺いました。
京都の食のセレクトショップ「YOLOs(よろず)」でプロデューサーを務めています。そこで大人気のフォーチュンクッキー、「こと葉」がこの本のベースです。フォーチュンクッキーって、食事の最後におみくじが出てきて、ぱりんと割ってそこで言葉を共有、幸せな気分になるなんて、すてきです。
「こと葉」は今から1年前に発売しました。中に封入するメッセージを3~4か月ごとにバージョンチェンジして、1年で120になったので、このたび1冊の本にまとめました。
『FORTUNE BOOK』はご覧の通り、左がメッセージ、右は空欄。言ってみれば半分の状態ですので、好きな時に開いて、今日はどんな1日にしようかなと考え、時には書き込んで、そのページの写真を友人に送って。この1冊を読者の方に参加して仕上げていただけるように作りました。
――120のメッセージは、たとえばですが1000の候補の中から選び抜いた120なのでしょうか。
いいえ、都度書き下ろしです。いくつか本の中から選んだ言葉もありますが、その時その時で読者の方に何を受け取ってほしいかを考えながら、私の心の動きのままに書いたものです。
ハッピーな人もいるかもしれないし、そうではない人もいるかもしれない。すべてをポジティブにというわけにはいかないけれど、誰が読んでも励ましになるような本にしたいと思いました。
メッセージはさっと出てくることもあるし、これでは伝わらないなと時間をかけて推敲したものもあります。ただ、ほとんどはすっと出てきた言葉です。誰かを諭そう、導こうなどという大それたことは考えておらず、心の動きそのまま。人には皆、人として生きていくための共通項のようなものがあるはずで、こんなときに自分自身に声をかけるならどのような言葉が刺さるだろう。そんなことを考え、自分自身に贈った言葉をシェアしたものです。
作家ならば日々ものすごく言葉が湧いて出るかというとそんなことはなく、私も日々思い悩むことがあります。右に行けばいいのか左なのか、なぜうまくいかないのかと迷うことも多くあり、順風満帆ではありません。皆さんと同じ目線で同じように日々を送っています、というのがベースのメッセージです。
この本を開くことが、あなたのよりよい明日への小さなアクションになるといい
――40代50代働く女性におすすめのメッセージを、と伺うつもりでしたが、そうではなくもっと偶発的に、たとえば占いのように、その瞬間ごとに出会ってほしい言葉をまとめたのですね。
その時の心の動きで受け止め方が違うと思います。日記のように毎日見たり、前から順番に見たり、気分次第でぱっと開いたり、それぞれでいいと思うんです。
読んで元気を出してというわけでもなく、押しつけになってもいけない。大事なのは自分も参加することです。まず開くということでワンアクションですよね。書店などで買っていただいた方もそこでワンアクションです。この本を手に取ってくださった方は、何かしらが琴線に触れているのだと思います。
――何かを言い渡すメッセージ本というわけではなく、アクションを誘うための仕掛けとしての本なのですね。
生きていくということは、自分を主体にして起こすアクションの連続です。この書籍が何かのきっかけにいなるといい。元気をくれるとか、幸せとか、そうしたメッセージにはいろいろありますが、私は「読者の方のきっかけになる」ことを願っています。
自分がどうするのかは自分にしか決められません。朝起きてコーヒーにするのか紅茶か、靴下を右か左どちらから履くか、無意識も含めてそんなことを全部決めて生きているのが自分なのです。そのすばらしさを思い出していただきたいのです。
この本を手にした時点ですでにワンアクションです。「言葉の本」ではあるけれど、より大きなメッセージは「あなたの存在を全部肯定します」です。大切なのは自分で自分を肯定すること。自分を肯定してあげないことにはどんなこともできませんから、まずは肯定してもらいたいのです。そして、そんな私もこの本を通じて自分を肯定しています。
オトナサローネ読者の方はミッドキャリアからシニア入り口の方だと伺いました。一度限りの人生で、すでにある程度のところまでステップを踏んでこられた方々ですから、その時点で素晴らしい。自信を持ってこれからの人生を大切に生きていただきたいのですが、そんな方でもちょっとだけ疲れたり迷ったりすると思います。そのときにアクションを起こすヒントになったり、きっかけになったりするといい。これをアクションのきっかけにしてくださいというわけでもなく、「そうなるといいな」というのが私の小さな願いです。
つづき>>>大きく関連するもう1冊のロングセラーも新装で登場。マハさんのお話は「AIと生きる現代」にまで発展し…
『FORTUNE BOOK 明日につながる120の言葉』原田マハ・著 1,980円(10%税込)/徳間書店