
結婚、出産、育児、仕事……人生の節目ごとにあらゆる選択をしながら、それぞれの役割を担って走り続ける40代、50代。そんな私たちを次に待っているのは、「介護」。それは、ある日突然やってくるかもしれません。健康状態、経済状況、家族の関係性などにより、介護のカタチは100人いれば100通り。でも、その実態はなかなか見えにくいものです。介護歴4年、オトナサローネで介護記事を連載中のライター小林が、実際に介護を経験した読者を取材、「介護のリアル」をお届けします。
【100人の介護 01】
■Nさん 東京都在住 55歳
父と母の在宅介護を約3年半経験し、2025年の春に父が他界。母は現在「特別養護老人ホーム」で暮らしている
▶ある日突然「足が動かなくなった」「急に足が動かなくなったの」母から突然の電話。「ただ事ではない」会社を飛び出した
「住まいは1階に父と母、2階に私たち家族(夫、私、娘、息子)の2世帯住宅ですが、顔を合わせるのは1ヶ月に1回程度。お裾分けやお土産などがあれば玄関にかけておき、特に干渉し合うこともないサッパリした関係でした。でも、こんなふうに良い距離感でいられたのは、二人が元気だったからこそ。それが、ある日を境に大きく変わってしまうなんて、想像もしていませんでした」と、Nさんは当時のことを振り返ります。
2021年11月下旬、仕事中にお母さんからの着信に気付いたNさん。「こんな時間に母から電話? 何かあったのかも」咄嗟にそう思い連絡すると「どうしよう、急に足が動かなくなったの……。お父さんは隣の部屋にいるから呼んでみたけど、なかなか気付いてくれなくて」と不安そうな声が聞こえてきました。
状況がよく理解できないまま、でも「ただ事ではない」という確信は持ちながら、会社に事情を話して早退したNさん。自宅に戻り、お母さんを連れて近くの病院へ向かいます。「まずはレントゲンを撮って、原因を見つけてもらって」と焦る気持ちで診察室に入ると、医師からこんな一言が。
「これは……レントゲンを撮るまでもないですね。症状からして『脊髄梗塞(せきずいこうそく)(※1)』だと思うので、すぐに大きい病院へ行ってください」
(※1)脊髄に血液を送る血管が詰まり、神経細胞が壊死(えし)してしまう病気。多くの場合は突然発症する。症状は、下半身の麻痺や手足のしびれ、背中や腰の強い痛みなど。
脊髄梗塞――初めて聞く病名に動揺しながらも、「とにかく急いだほうがいい」ということは理解して、近隣の総合病院へ。お母さんが脳や脊髄などの本格的な検査を受ける中、Nさんもスマホを片手に必死に病気のことを調べます。
「幸いにも、母はこれまで大きな病気にかかることはなく、健康でした。病院に通うといっても、歯医者と眼科くらい。前日も友だちと外出していたし、元気に暮らしていたんです。だから、何の前触れもなく発症する病気だと分かっても、すぐに受け止めきれなくて……」
こう話すNさん。しかし、それ以上にこの事態に困惑していたのは、Nさんのお父さんでした。
▶「妻がいない」ショックでパニックを起こす父鳴り止まないインターホン。「どこにいるんだ!」80歳父は、妻の不在でパニックに
家にいたはずの妻が、急にいなくなってしまった。どうやら妻に何かあったようだが、細かいことは分からないし、とにかく心配でたまらない……。「おそらく父は、こんな心境だったと思います」とNさん。
「病院へ向かう途中、父から何度も電話がありました。『今、どこ?』と不安そうな声を出す父に状況を説明するんですが、数分するとまた同じように連絡がくる。そんないつもと違う父の様子から、『あぁ、もしかして認知症が始まったのかな……』と思ったんです」
そんなお父さんへの違和感がさらに増したのは、お母さんの入院手続きを終え、Nさんが1人で自宅に戻ったときのこと。玄関先では、旦那さんと娘さんが「もう、ずっとインターフォンが鳴り止まない!」と大混乱に。
1階と2階はリビングのインターフォンで呼び出すことができるため、どうやら不安を抱えたお父さんが、ひたすら鳴らし続けたようなのです。Nさんは急いで下に降り、「お母さんは命に別状はなく、でも治療をするから入院が必要で」と状況を説明しましたが、一向に理解してもらえなかったといいます。
「あまりにも突然の出来事で、父も相当ショックが大きかったと思います。それこそ80歳という年齢なので、耳が遠く、ちょっとした物忘れはありましたが、年相応のレベル。それが、この数時間で一気に様子が変わってしまい……。これには本当に驚きました」
そして、翌朝からNさんの1日は大きく変わります。
「当時はフルタイムで働いていたため、朝起きると父の食事の支度をし、慌ただしく家を出ます。母は初期の治療を受けるため1ヶ月ほど入院となったので、合間に先生からの連絡を受けながら、病院へ通う日々。コロナ禍ということもあり母にはあまり会えなかったのですが、逆に『もう、あとは病院に任せよう』と割り切れた部分はありました」
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