
半年ほど前、50代男性同僚に子宮頸がんについて、原因となるHPVウイルスとHPVワクチンを説明したのですが、その際の彼の反応「……それ、男が打ったほうが早くない????」
2026年7月22日、厚生労働省の予防接種・ワクチン分科会「ワクチン評価に関する小委員会」において、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの男性への定期接種化に関する議論が行われましたが、結論は出ず継続審議となりました。
約4年にわたり議論が続くなかでの決定繰り延べに対し、製薬大手MSDは強い憂慮を示すステートメントを発表、国際基準との隔たりや集団免疫確保の重要性を訴えています。その概要をお伝えします。
4年間の議論を経てもなお「継続審議」、なぜ???
HPV(ヒトパピローマウイルス)は、子宮頸がんだけでなく、男性においても中咽頭がんや肛門がん、尖圭コンジローマなどの深刻な疾患を引き起こす感染症です。主に性交渉を通じて感染するのが特徴。男性への接種は、男性自らの病気を予防するだけでなく、性交渉を通じた女性への感染伝播を抑制する集団免疫を生み出すため、私たち女性にとっても極めて大きな意義を持ちます。
しかし、今回の厚生労働省の小委員会では、厚生労働科学研究による費用対効果分析において「9価HPVワクチンの男性2回接種における費用対効果に課題がある」と評価され、判断が見送られました。
声明を出したMSDは9価ワクチン・シルガード9の製造元であり、ストレートにいえば利益享受者ではあります。しかしHPVワクチンとは我々生活者が「子宮頸がんり患の予防」という、何にも代えがたい健康価値を得るもの。MSDは今回のステートメントで費用対効果分析モデルが男性接種による「女性への間接効果」を評価対象外としている点や、海外で用いられる基準よりもワクチンの効果持続期間を短く設定している点を指摘。「将来の予防効果を過小評価している」と強く反論しています。
G7で日本だけが「女性は子宮頸がんを自力でガードせよ」と言っている状態です
世界のHPVワクチン政策を見渡すと、男女ともに10代前半で公費接種を受ける体制が基本中の基本。主要7カ国(G7)の中で男性の定期接種を導入していないのは日本のみであり、アジア地域でも台湾(2025年開始)や韓国(2026年開始)をはじめ積極的な導入が進んでいます。すでに世界では85以上の国・地域が男女双方を対象とした定期接種を行っており、その数は女性限定の国を大きく上回っています。
男女ともに高い接種率を維持するオーストラリアでは、2028年までに「子宮頸がんの排除(10万人あたりの罹患者数4人未満)」が達成される見通しであり、また、英国イングランドにおける最新の研究では、高接種率世代の若年女性において子宮頸がんによる死亡が確認されなかったという画期的な成果も報告されています。
つまり、海外での子宮頸がんは、たとえば結核のような「昔は死病で、大勢がかかって大変だったんだよね……」という病気になりつつあるのです。
HPVワクチンの男性接種の定期接種化を要望する声は、国内でも関連学会や患者団体などから上がってきています。例えば、予防接種推進専門協議会は20以上の加盟学会に加えて複数の非加盟の学会も名を連ねて、2024年3月には計27学会から、2025年10月には計32学会から2回にわたり厚生労働省に要望書が提出されています。
また、2026年7月には自民党のHPVワクチン推進議員連盟が、2027年4月を目途に男性への定期接種化を実現するよう厚生労働省に要望するとともに、学生の有志も定期接種化を求める署名19,000筆を厚生労働省に提出しました。東京都をはじめ、独自に男性接種に公費助成を行う自治体も90以上と増えてきています。つまり、独自助成を行っていない自治体との格差も生じ始めているのです。
私は東京都世田谷区に居住していますが、世田谷区では女子の定期接種(小学6年〜高校1年相当)に加え、小学6年生から高校1年生相当の男性を対象としたHPVワクチンの費用全額助成を実施しています。子宮頸がんというシビアな病気を考えたとき、この格差はある意味、極論を言えば命の格差に直結しかねない。この状態が続いていいとは私にはとても思えないのです。
予防できる病気は予防することが、医療リソースひっ迫の唯一の回避方法ではないのか
私には中2の娘がいますが、小6の時点ですぐ接種を受けました。論より証拠だなと思い、私自身も2025年に自費で3回の接種を受けています。というのも、私たちは可能性のうえではあと50年の人生がありますが、シルガード9は自費では約10万円かかる高額なワクチンですので、金銭的余裕が減る定年後では尻込みして、結局「あのとき打っておけばよかった」となりそうだったから。これを普及させるためには公費接種が必須です。
今後医療リソースは間違いなくひっ迫していきます。オトナサローネは健康法から先端医療まで、多方面にわたる予防医療の取材も続けていますが、なぜなら医療サービスを今ほど潤沢に使える未来は訪れないから。介護といっても、若い人が介護してくれる未来はありません。私たちはお互いを介護しあうことになるのでしょう。従って疾病リスクは1つでも多く消し、できる限り自力での健康を保つ、いわゆる「ピンピンコロリ」以外を絶対に起こさないという意識がこの先50年とても重要になります。
国はどうか日本から子宮頸がん、およびHPVウイルスに起因する感染症を撲滅するよう、最短での実現をお願いいたします。




