6月26日(金)~28日の3日間、国内最大級の街「TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)」および「高輪ゲートウェイ駅」を舞台に、『NU Festival』が開催された。『NU Festival』は、世界最前線のミュージック、アート、テクノロジーが交差する都市型フェスティバル。街のさまざまな空間を横断しながら、ライブ、インスタレーション、テクノロジー体験、トークなど多彩なプログラムが展開された。本記事ではその中から、文化創造・発信拠点「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」のクリエイティブ空間「Box300」で行われた「NU Art」にフォーカス。音楽分野のAI活用に関する展示作品や、アーティストのトークセッションレポートを元に、これからのAIのあり方について考えてみたい。
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【進化するAIのあり方をアートで見つめ直す『NU Art』】
『NU Art』では、AIによる「生成」や「自動化」に対するオルタナティブな視点から、現代社会におけるAI観とは異なるアプローチを提示する作品が展示された。キュレーターを務めたのは、アーティスト/AI研究者の徳井直生氏。人間のように自然な文章を生成したり、要約したり、翻訳したりする能力を持つAIモデル「LLM」が生成した古典の文庫本を並べた作品(Dentsu LabとQosmoによるアートプロジェクト)や、作家のスプツニ子!本人をモデルにしたAI生成の「テックブロ」たちが人類の未来を議論する「Tech Bro Debates Humanity」などの作品を通じて、目覚ましい発達を遂げ続けるAIのあり方について考えさせられた。


今回、『NU Art』のコラボレーターを務めたのは、スペイン・バルセロナを拠点に、音楽とクリエイティブ・テクノロジーを統合した世界最大級の国際的フェスティバル『Sonar』と同時開催の国際カンファレンス『Sonar+D』だ。『Sonar+D』は、科学者、起業家、アーティストが一堂に会する場であり、AIやバイオテクノロジー、データサイエンスをアートの力で社会へ実装するための世界的なハブとして機能している。これまでにも世界各地で開催され、人々の想像性やイノベーションを高めてきた同イベントが、東京ならびにTAKANAWA GATEWAY CITYという新しい都市と結びついた形だ。
※Sonarのoはアクサン・テギュつきが正式表記
【多様化する音楽×AIサービスの今】
『NU Art』で筆者が特に興味深いと感じたのは、「音楽×AI」という観点の展示だ。会場ではローランド株式会社とAIオーディオ技術を開発するNeutoneの共同研究による次世代オーディオ・エフェクト技術『Project LYDIA』のプロトタイプが展示されており、筆者も体験することができた。『Project LYDIA』では、入力した音の特性を学習させることで、ユーザーはある楽器から別の楽器への音色変換をリアルタイムに実現することが可能になる。使用者には音楽制作に関わるミュージシャンやエンジニアを想定しているそうだ。これはAIの技術を駆使して音楽を作るというより、AIをクリエイターの創造をサポートするパートナーに据えた例と見ることができる。

また、近年では生成AIを使って誰でも気軽に作曲が可能な「Suno」「Udio」などのサービスが急激に台頭しているが、それに伴い著作権侵害という課題も浮き彫りになっている。AI音楽のためのインフラ整備を行い、この問題の解決を試みているのが韓国のNeutune社だ。同社のAIリミックスプラットフォーム「MixAudio」は、ユーザーは完全ライセンス取得済みのカタログから楽曲を選択して音楽のリミックスが可能。同時に、音楽の権利を保有するアーティストは、使用された量に応じて報酬を受け取ることができるシステムになっている。生成AIを使って誰でも気軽に音楽を作れる自由さを提供しつつ、クリエイターには適切な収益が分配されるこの仕組みは、AIとアーティストが理想的な形で共存できる未来を見据えたものだと言えるだろう。

【徳井直生氏×アンドレア・ファロッパ氏 トークセッションレポート】
6月28日(日)には、『NU Art』キュレーターの徳井氏と、コラボレーターの『Sonar+D』ディレクターのアンドレア・ファロッパ氏らによるトークセッションが行われた。
徳井氏は、画像・動画・音楽など、さまざまな生成AIのシステムが出てきている現状に触れると、「本当に人間のクリエイティビティを拡張することに寄与しているんだろうか。“生成”という名前がついているが、実は“複製”技術であって、過去に人間が作ってきたものの平均値、“それっぽいもの”を複製する技術になっているのではないか」という問いを提示。

その上で、「生成の原理に基づいて新しいものを作る、人間が主体的にクリエイティビティを発揮できるようなツールとしてのAIのあり方だったり、AIの問題点に切り込んでいる作品を今回キュレーションしました」と、『NU Art』でのねらいを明かした。
また、“AIが人間のクリエイティブを脅かすのではないか”という議論については、アンドレア氏の言葉が印象的だった。アンドレア氏は、「AIは新しいものを創造しません。何か既にあるものを複製する、あるいはリプロデュースすることはできるかもしれないけれども、現実問題として例えばAIが世界を乗っ取るという考えは、少し荒唐無稽なように思います」と私見を述べた。

続けて、「職が失われることはあるでしょうし、自動化が進むのも避けられないこと」とも話しつつ、「ただし、AIにできることには制約があります」と強調。「新しいものを作っていくということ、あるいは他の視点を持ち込む、既存の枠に囚われない考え方をするというところに、まさに人間のクリエイティビティの発揮のしようがあるのではないか」「それこそが、私たちがAIと差別化を図っていく舞台となるのではないかと思います」と力強く語った。
さらに、「実際問題として、AIが幅広く使われるようになったことで我々はどんどん愚鈍になって、サボりがちになっているのではないか」と懸念も示しながら、「私たちの脳細胞は使われなければその機能を失ってしまいます。ですので、ここでいったん立ち止まってみてほしい」「皆さんがどんな人生を今後生きていきたいのか。そういう問いを自らに立てていただきたい」「技術は私たちが利活用するためのものであって、技術に使われる私たちであってはいけないというのが、AI時代の今もっとも考えるべきことではないでしょうか」と訴えた。

【AI時代だからこそ輝く人間のクリエイティビティ】
昨今AIの技術はさまざまな方面に広がりを見せ、仕事や生活に必要不可欠な存在になりつつある。一方で、デザイナーやクリエイターが活躍するクリエイティブな領域・広告分野については、生成AIを利用したことでユーザーの抵抗感や反発を招くという事例も多く、乖離が広がっているように感じる。筆者もいち文章に携わる身として、この問題には考えさせられることが多かったが、今回の『NU Art』の展示やトークセッションを通じ、人間が持つ創造の可能性に改めて気付かされた。未来を切り開くのは、人間のクリエイティビティ。そのことを胸に刻み、AI時代の荒波の中を力強く生きていきたい。




