「ずっと生きていてほしい」90歳の母の死に直面した娘の選択とパニック。後悔しない最期のために必要な「準備」とは?【3000人を看取った医師が解説】 | NewsCafe

「ずっと生きていてほしい」90歳の母の死に直面した娘の選択とパニック。後悔しない最期のために必要な「準備」とは?【3000人を看取った医師が解説】

女性 OTONA_SALONE/LIFESTYLE
「ずっと生きていてほしい」90歳の母の死に直面した娘の選択とパニック。後悔しない最期のために必要な「準備」とは?【3000人を看取った医師が解説】

大切な人の死に向き合うとき、「これでよかったのだろうか」と後悔や不安が押し寄せるのは、誰にとっても自然な感情です。

これまで3000人のお看取りを経験してきた、たんぽぽクリニックの永井康徳医師は、最期の時をどう過ごしたいか、今のうちに少しずつ話し合う「人生会議」をしておくことがおすすめだと言います。

死に向き合うことは、決して怖いことではなく、今をより良く生きるための準備でもある。そう語る永井医師の著書から、後悔しない看取りのために、今私たちができる準備や悲しみの受け入れ方をご紹介します。

※本記事は書籍『後悔しないお別れのために33の大切なこと』(永井康徳:著/主婦の友社)から一部抜粋・編集したものです

大事な人の死を乗り越えるために

家族や親しい人を看取るときは、誰しも「本当にこれでよかったのだろうか」と思い悩むものです。大切な人を亡くした悲しみや喪失感はとても大きなものになるでしょう。私は「患者さんの望みをかなえる」ことは、死が近い患者さんの心だけでなく、残された家族の後悔をできるだけ少なくしてくれると考えています。

どれだけいい看取りになっても、「本当にこれでよかったのか」と思うことはあります。そんなときに、患者さんと過ごした時間を思い出し、食べたいものを食べたり、行きたいところに行ったり、「本人の望むようにできた」と思えると、家族や親しい人の死を受け入れやすく、悲しみや喪失感は徐々に薄れていくのだろうと思うのです。

残された家族のためにも人生会議は必要

後悔を少なくするためにも、そのつど迷って考える経過が大事なのです。私は人生会議を早い段階から積極的に行うようすすめていますが、それは残された遺族へのグリーフケア(家族と死別して悲しみを抱える遺族をサポートすること)につながると考えているからです。

亡くなってしまってからではできることはありません。後悔しないためには、生きている間にどう過ごすかが大事です。

看取りに正解はありません。亡くなる前にどう過ごしたいのか、何をやりたいのかは一人ひとり違います。それを実現するのは、患者さんや家族だけでは難しいでしょう。だからこそ、患者さんや家族に寄り添い、やりたいことを支援してくれる医療や介護のスタッフの存在がとても重要になります。

もちろん、いい看取りだったとしても悲しみや喪失感に押しつぶされそうになることもあるでしょう。受け入れが難しいという遺族もいらっしゃいます。それでも、時間がたつことで徐々にやわらいでいきます。

悲しみを感じたらそれに蓋をすることなく、故人を思い出しましょう。〝日にち薬〟という言葉がありますが、どんな悲しみも月日を経ればいつか乗り越えることができます。後悔しないためにも、生きているときどう過ごすかが大事です。

頭で理解していても心がついていけない

90歳の女性の患者さんの娘さんは、退院前カンファレンスではじめて会ったとき「母親にはずっと生きていてほしい。母が死ぬのが怖い」と話されました。

私は「お母さんに生きていてほしいというお気持ちはよくわかります。家族に長く生きてほしいと思うのは当たり前ですよね。でも、今のお母さんは治療が難しい状態です。このまま点滴を続けると、お母さんをさらに苦しめることになります。お母さんがどのような最期を迎えたいと思っているのかを考えて、いつか亡くなることに向き合い、お母さんにとっての最善を考えていきましょう。医療を最小限にすれば食べたいものを食べられるかもしれません」とお伝えしました。

その場では娘さんも点滴の中止と自然な看取りに納得して、感謝の言葉を述べられました。そして、そのまま母親の家に泊まり、介護することになったのです。

どの家族にもあることですが、頭では理解できても心がついていけるわけではありません。いったんは決めていても、「治療をやめて看取るという選択でよかったのだろうか?」と思い悩むものです。

この娘さんの場合は、気持ちが不安定になったり、想定外のことが起こったりすると、激昂(げきこう)して暴言を吐いたり、自分以外の人を締め出したりしたのです。

周囲の人間やスタッフは対応に苦慮することもありましたが、その行為は「お母さんを失いたくない、死を目の当たりにするのが怖い」という悲しみと恐怖の裏返しでもありました。そのたびに退院前カンファレンスでお話ししたことを繰り返し伝えて、落ち着かせるしかなかったのです。

自宅に戻って1週間がたち、いよいよ亡くなるというとき、娘さんは「こんなに早いと思わなかった」と一時はパニックに陥りました。それでもその瞬間のお母さんに苦しんでいる様子がなく、眠るように亡くなったことで落ち着きを取り戻し、安らかに旅立ったお母さんの様子に安堵(あんど)されたのでした。

ここまでの記事では、「大事な人の死を乗り越えるために大切なこと」をご紹介しました。続く関連記事では、「看取り」の考え方についてお届けします。
つづき>>「死に目に会えないのは不幸」という呪い。罪悪感から母の蘇生を求めた娘たちが救われた、医師の意外な言葉

著者略歴: 永井康徳(ナガイヤスノリ)
医療法人ゆうの森 たんぽぽクリニック 医師 。愛媛県の僻地診療所勤務の後、2000年に愛媛県松山市で、四国で初めての在宅医療専門のたんぽぽクリニックを開業。「理念」と「システム」と「人材」のすべてを高いレベルで維持して在宅医療の質を高めることをめざし、現在は常勤医10人、職員100人の多職種チームで在宅医療を主体に、有床診療所、外来の運営も行っている。平成22年には市町村合併の余波で廃止となった人口約1200人の町の国保へき地診療所を民営化し、開設4ヶ月で黒字化を達成。そのへき地医療への取り組みは平成28年に第1回日本サービス大賞地方創生大臣賞を受賞。全国各地での講演を行い、「全国在宅医療テスト」や「今すぐ役立つ在宅医療未来道場(通称いまみら)」「流石カフェ」など在宅医療の普及のための様々な取り組みを行っている。YouTubeの「たんぽぽ先生の在宅医療チャンネル」も大好評。


《OTONA SALONE》

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