2LDKの親子「川の字」がもたらす、夫婦関係のひずみ。妻を誘っても冷たく手を払われる…「見えない結界」に苦しむ、夫の葛藤と孤独 | NewsCafe

2LDKの親子「川の字」がもたらす、夫婦関係のひずみ。妻を誘っても冷たく手を払われる…「見えない結界」に苦しむ、夫の葛藤と孤独

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2LDKの親子「川の字」がもたらす、夫婦関係のひずみ。妻を誘っても冷たく手を払われる…「見えない結界」に苦しむ、夫の葛藤と孤独

家庭の問題を「令和男の哲学」として捉え、男性の視点から夫婦間の葛藤や悩みを綴る本連載。現代社会において、家族の形は多様化の一途を辿っています。初婚同士の結婚だけでなく、離婚を経て新たなパートナーと再婚するケース、そして子連れでの結婚、いわゆる「ステップファミリー」を築くご夫婦も決して珍しい存在ではなくなりました。

愛する女性と、その彼女がこれまでの人生で大切に育ててきた子ども。血の繋がりを超えて、三人の新しい生活は、大きな希望と喜びに満ちてスタートするはずでした。

しかし、一つ屋根の下で暮らす「現実」の生活は、時として残酷なまでに夫婦の間に見えない壁を作り出していくことがあります。特に、新たに「父親」という重要な役割を担うことになった男性が抱えるプレッシャーと孤独は、社会の中で不可視化されがちです。

今回は、シングルマザーの女性と結婚し、念願の温かい家庭を築いたものの、子どもへの過剰な配慮と「良き父親」であろうとする強迫観念から、あっという間に「レス」状態に陥ってしまった一人の男性の苦悩に迫ります。

愛とは何か、家族とは何か、そして、親になるとはどういうことなのか。彼の静かな告白から、現代の夫婦が陥りやすい深い罠が見えてきました。

【無子社会を考える #34】

※個人が特定されないよう設定を変えてあります
※写真はイメージです

「恋人」から「共同運営者」へ。交際期と結婚後の落差

「正直に言うと、結婚前のほうがずっと、彼女と『男と女』として深い部分で触れ合えていたという実感があるんです。今はもう、同じ家で暮らす共同運営者というか……どうやって彼女に触れたらいいのか、その方法すら分からなくなってしまったんですよね」

都内の閑静な住宅街にあるカフェ。休日の昼下がり、少し疲れたような、しかしどこか諦めを含んだような曖昧な笑顔を見せながら語るのは、ウェブデザイナーとして働く智さん(仮名・36歳)です。清潔感のある服装と、穏やかな口調。どこからどう見ても「優しくて頼りがいのある夫」であり「良いパパ」の空気を纏っている彼ですが、その胸の内には誰にも言えない冷たい隙間風が吹いていました。

彼はちょうど1年前、バツイチで当時5歳の息子(現在6歳・小学1年生)を女手一つで育てていた美香さん(仮名・38歳)と結婚しました。智さん自身は初婚です。お二人の出会いは、知人を介した小さな食事会だったそうです。仕事と育児を両立させながら、凛とした姿勢で生きる美香さんの強さに惹かれた彼は、次第に彼女を支えたいと強く願うようになりました。

交際期間は約1年半。最初の半年は二人きりで会う時間を重ね、その後、少しずつ美香さんの息子である陸くん(仮名)を交えての外出を増やしていきました。週末ごとに公園でキャッチボールをし、一緒に動物園に行き、ファミリーレストランで笑い合う。陸くんが智さんに懐き、自然な流れで「パパ」と呼んでくれるようになったタイミングで、彼は一生の覚悟を決めてプロポーズをしました。

愛する女性と、自分を慕ってくれる無邪気な子ども。彼にとって、それは長年待ち望んだ、何よりも尊く温かい家庭の風景だったのです。

ーーー交際中は、お子さんを交えて会う時間と、お二人だけで会う時間をしっかりと分けていたのでしょうか。

「はい。基本的には週末に三人で公園に行ったり、お昼ご飯を食べたりして、夕方には解散するという健全なデートが多かったです。でも月に1、2回、どうしても外せない美香の仕事やリフレッシュのために、彼女の実家が陸を週末だけ預かってくれる日があって。その時は、僕のマンションで一緒にお泊まりをしていました。あの時間は、今思えば完全に『恋人同士』でしたね。彼女も、実家に子どもを預けているという安心感があったからか、母親の顔から、僕の好きな、少し隙のある一人の女性の顔に戻ってくれて。ベッドの中では、お互いの愛情を確かめ合うように深く繋がり合えていました。そのメリハリがしっかりとあったからこそ、僕たちの関係は燃え上がっていたし、結婚へのモチベーションも高まっていたんだと思います」

ーーーしかし、その甘やかな関係性は、結婚して同居を始めたことで劇的な変化を迎えることに?

「劇的に変わりましたね。当然のことなんですが、一緒に暮らし始めた瞬間から、24時間365日、僕たちは『親』にならざるを得なかったんです。特に僕は、陸の『本当の父親』にならなきゃいけないと、自分自身に強烈なプレッシャーをかけて肩に力が入っていました。美香も美香で、新しい環境で陸が少しでもストレスを感じないように、寂しい思いをしないようにと、ものすごく神経を尖らせて気を張っていた。その結果、夫婦が男女として見つめ合い、スキンシップを取るという行為は、生活の優先順位の最下位へと転げ落ちてしまったんです」

2LDKの密室。「川の字」がもたらす見えない結界

お二人が新居に選んだのは、都内近郊の駅から少し離れた2LDKの賃貸マンションでした。将来的な貯蓄を考え、家賃を抑えるための選択だったそうです。リビングに隣接する6畳の和室を家族三人の寝室にし、もう一つの洋室は将来の子ども部屋として、今は智さんの仕事部屋兼、入りきらない荷物の物置として使っています。

ーーーこの「空間的な制約」が、夫婦の距離を決定的に引き離す要因の一つとなりました。寝室の環境は、彼らにどのような影響を与えたのでしょうか。

「和室に布団を横に三つ並べて、いわゆる川の字で寝ています。真ん中が陸ですね。最初は、僕と美香が隣同士に布団を敷いて、その端に陸が寝る、という形も試してみたんです。でも、陸が夜中にふと目を覚ましたとき、隣にママがいないとパニックになって激しく泣いてしまって。環境が変わった不安もあったんだと思います。結局、美香を僕と陸で挟むか、陸を真ん中に入れるかしか選択肢がなくなりました。そして当然のように、美香は陸の隣を選びますから、必然的に陸が真ん中になるわけです」

ーーー物理的な距離が、そのまま夫婦のスキンシップの強固な障害になってしまったのですね。

「ええ。それに、子どもの眠りって大人が思っている以上に浅いんです。ちょっとした物音や気配、布団が擦れる音だけで寝返りを打ったり、目をこすったりする。夜、陸が完全に寝静まったのを見計らって、美香の肩にそっと手を回そうとしたことが何度かありました。でも、その度に美香はビクッとして『ちょっと、陸が起きちゃうから』と、僕の手を冷たく払うんです。もちろん彼女は僕を拒絶しているわけではなく、純粋に子どもの睡眠を守ろうとしているだけだということは、頭では痛いほど理解しています。でも、あの『そっと払われる』感覚が、僕の心に小さな棘として少しずつ、確実に蓄積していきました。愛する人に触れたいという純粋な欲求が行き場を失っていくのは、想像以上にしんどいものです」

ーーー子どもが寝ている和室を離れ、別の部屋に移動するという選択肢はなかったのでしょうか。

「一度、陸が寝た後に『少しリビングで飲まない?』と誘い、ソファで触れようとしたことがあります。でも、美香は露骨に嫌な顔をして『もし今、陸が起きてきて、私たちが寝室にいないって気づいたら、すごく不安になるしトラウマになるかもしれないよ』と言われました。確かに、ステップファミリーという少し特殊な環境下で、子どもにこれ以上の不要な不安を与えたくないという彼女の母親としての防衛本能は、絶対に正しいんです。反論の余地なんてありません。僕も『ごめん、僕が浅はかだったよな』と引き下がるしかありませんでした」

▶ステップファミリーで「良き父親」であるために犠牲にしたこと

「良き父親」を演じることの息苦しさと罪悪感

子連れ結婚において、新たに父親となる男性が抱える特有のプレッシャーがあります。それは「血の繋がらない子どもだからこそ、実の父親以上の愛情を注ぎ、完璧な父親像を体現しなければならない」という、自ら課した強迫観念です。令和という時代は、男性にも積極的な育児参加を当然のものとして求めます。それは素晴らしい進歩ですが、一方で男性から「弱音を吐く権利」や「一人の男としての欲求」を奪い去っている側面もあるのです。

「僕自身が、陸の前で『一人の男』としての側面を出すことに、強烈な罪悪感を覚えるようになってしまったんです。陸からすれば、ある日突然自分のテリトリーにやってきた見知らぬ大人の男が、大好きなママを独占しようとしているように見えるかもしれない。だから、日中はとにかく『良きパパ』であろうと必死に努めました。休日は自分の疲労なんて無視して全力で公園で走り回り、一緒にお風呂に入って体を洗い、夜は絵本を読んで寝かしつける。美香の負担を少しでも減らすことが、今の僕にできる一番の愛情表現であり、この家族に受け入れてもらうための唯一の手段だと思い込んでいたんです」

彼は間違いなく、客観的に見れば素晴らしい父親です。しかし、その過剰なまでの適応努力によって、彼自身の人間としての、そして男性としての根源的な欲求は完全に重い蓋をされてしまいました。

「夜、狭い和室で三人で寝転がっている時、ふと天井を見上げながら『俺は、この家で性欲を持った男であってはいけないんじゃないか』と本気で思うようになりました。隣で無防備な寝顔を見せている幼い子どもと、日々の育児と家事、そして仕事で完全に疲れ果てて泥のように寝落ちしている妻。この家族という神聖な空間の中で、自分だけがドロドロとした性的な欲求を抱えていることが、なんだかひどく不潔で、許されないことのように思えてきて……。自己嫌悪に陥る夜が続きました」

結婚して半年が過ぎる頃には、二人の間から性的なニュアンスを持つ会話やスキンシップは完全に消滅していました。朝、出勤時の「いってきます」のキスもありません。すれ違いざまに肩を抱くことも、ソファで寄り添ってテレビを見ることもないのです。それは、子どもへの配慮という名の「自己検閲」が生み出した、あまりにも悲しく、そして冷たい距離感でした。

妻の無意識の「母親化」と、決定的な拒絶の夜

智さんをさらに深く追い詰めたのは、他でもない妻・美香さんの変化でした。交際中は、実家に子どもを預けた週末だけ、智さんの前で甘えた表情を見せ、女性としての柔らかな隙を見せてくれていた彼女。しかし、入籍して同居を始めた瞬間、その「女」の部分は完全に封印され、彼女は24時間体制の強固な「母親」へと変貌を遂げてしまったのです。

ーーー奥様自身は、智さんに対する態度や接し方が変わったという自覚を持っているのでしょうか。

「たぶん、全くないと思います。美香の中では『これでようやく無事に家族になれた』という安心感のほうが圧倒的に大きいんでしょうね。彼女にとって、今の僕は『愛し合う夫』である前に、『一緒に過酷な子育てのミッションをこなしてくれる、頼もしい共同運営者』なんです。そこには戦友のような絆はあるかもしれませんが、男女の艶めいた感情は入り込む隙がありません」

決定的な出来事があったのは、結婚から8ヶ月が経過した頃のある夜でした。仕事で大きなプロジェクトを無事に終え、安堵感から珍しく会社の同僚と遅くまで飲み、少し酔って帰宅した智さん。寝室の襖をそっと開けると、陸くんは既に熟睡しており、美香さんは暗闇の中でスマホの画面を見つめていました。

「久しぶりに大きな仕事が終わって、心が少し解放されていたんだと思います。無性に美香の温もりが恋しくなって、少しだけ甘えたかったんです。僕は着替えてから、布団の端から彼女に近づき、背後からそっと抱きつきました。でも、美香は僕の腕を乱暴に解きながら『ちょっと、お酒臭いよ。やめて。陸が起きちゃうからあっち行って』と、氷のように冷たい声で言ったんです。あれは、本当にきつかったですね。心が折れる音が聞こえた気がしました」

愛する妻からのその冷たい拒絶は、男性としての存在意義を根本から否定されたような、深い傷を智さんの心に刻み込みました。

「その日を境に、僕から彼女に触れることは一切なくなりました。これ以上傷つきたくないんです。『また拒絶されるかもしれない』『また軽蔑されたような、汚いものを見るような目で見られるかもしれない』と思うと、恐怖で手が出せない。そうやって、自分から分厚い壁を作ってしまったのは、間違いなく僕の方でもあります」

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