
ゴールデンウイーク特別企画!オトナサローネで公開された記事の中から、「大反響だった記事」をピックアップしてお届けします。ひろたかおりさんによる本シリーズは「自分の心を覗いているような気分になることも…」と人気です。
(集計期間は2018年1月~2026年4月まで。本記事の初公開2018年1月 2026年4月加筆修正。記事は取材時の状況です)
どうして彼女たちは妻ある男と関係を持つのか。彼女たちは、幸福なのか。不幸なのか。恋愛心理をただひたすら傾聴し続けたひろたかおりが迫る、「道ならぬ恋」の背景。
はじめての不倫…。彼は、会社の部下で
着信に気がついてスマホを見ると、L子(40歳)だった。通話ボタンを押すと、スマホの向こうからは明るいトーンの声が流れてきた。「ねぇ、今度彼が滝を見に行きたいって言うんだけど、前にみんなで行ったあそこ、何ていうところだっけ?」前置きもなしに話し始めるとき、L子はだいたい高揚している。後ろから車の雑踏と音楽が聞こえてきて、いま運転中なの? と先に尋ねると「うん。でも路肩に停めてるから大丈夫」とL子は何かをくわえたようなくぐもった声で答えた。ライターの着火音が続く。
以前友人たちで出かけた滝は、ここから一時間ほどのところにある有名な場所だった。だが山奥のため観光シーズンにでもならないと滅多に混むことはなく、不倫相手と行くには格好のデートスポットでもあった。場所と名前を教えると、ちょっと待ってという声と共に少し間があった。カチン、とボールペンの芯を出す小さな音がした。
「帰ってから電話くれたらいいのに」と呆れながら言うと、「すぐ彼にLINEしたいの。ごめんね」煙を吐き出す息と一緒にL子は笑う。L子は既婚者だ。夫とは「もうずっと仮面夫婦よ」と自嘲気味に言うことが多いが、今は離婚する気配はなく、L子はふたりの子どもを育てながら正社員として働き、役職もついていた。
L子の「彼」は会社の部下であり、年下の独身者だった。関係は二年目に入っていたが、L子の熱は冷めるどころかいっそう彼にのめり込んでいるように見えた。「ていうか、さっきまで会ってたんだけどさ」ありがとう、と言いながらL子が運転席で座り直す衣擦れの気配がした。
「今日は彼がホテル代を出してくれたの。ふたりで有給を取れるなんて滅多にないから、何か盛り上がっちゃって……」L子の一方的なおしゃべりは止まらない。うんうんと相槌を返しながら、真っ直ぐ家に帰るのが嫌だったんだな、と気がついた。
産休後すぐに仕事に復帰したL子は、もともと仕事が好きだった。同じ会社員として働く夫の収入はあまり多いほうではなく、共働きは必須だったが、それでも「私が稼げばいいことじゃない」と笑い飛ばす力強さがL子にはあった。
ふたりの子どもにも愛情を注ぎ、一見家庭は上手くいっているように見えた。だが、
「私のほうが稼ぎがいいことが気に入らないのよ、うちの旦那。残業で遅くなっても『ご飯が出来てない』『洗濯を干してない』って文句ばっかり。少しは手伝ってもバチは当たらないのにね」
本編では、キャリアウーマンのL子が会社の部下との関係を楽しみつつも、どこか虚無を感じさせる様子をお届けしました。▶▶「家庭はもう冷え切ってるのよ」会社の部下との不倫におぼれる40代既婚女性の誤算とは では、L子の家庭事情と、心のひだに迫ります。




