更年期症状は刻々と移り変わっていく。しかし「治療」にたどりつく人は今でも10%程度、我慢してほしくないのに | NewsCafe

更年期症状は刻々と移り変わっていく。しかし「治療」にたどりつく人は今でも10%程度、我慢してほしくないのに

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更年期症状は刻々と移り変わっていく。しかし「治療」にたどりつく人は今でも10%程度、我慢してほしくないのに

日本人の閉経は平均して52歳前後。閉経の前後5年を更年期と呼ぶので、47歳から57歳がこの時期に当たる人も多いでしょう。

「日本の更年期を取り巻く環境はやや改善したという感じはしますが、それでもまだまだ患者さんは情報収集がしにくく、医療者側は助けることをしにくいのが現状です。そんな中、日本産婦人科学会もやっと新たな取り組みが必要と、今月アンケートを取り始めました」

こう語るのは、オトナサローネではおなじみ、川崎医科大学総合医療センター産婦人科特任部長 太田博明先生。

1990年代から現在まで一貫して日本の更年期医療、女性医学の先端に立ち続けてきた太田先生に「日本人女性の更年期、その特徴と解決に向けて」というテーマで5回に分けてお話を伺います。(この記事は5回中の3回目)

更年期症状で受診する患者の一部は「荒れている」ことがある?

たまに耳にする話ではあるのですが、更年期障害での受診患者はメンタル面でも不安定なケースが多々あり、治療の担い手である担当医師らも「結構はひどい目」にあうのだそうです。

「代わってくれる診療科が他にあるならば、正直なところ診療したくないと言い出す医師もいるかもしれない、そんな状況も聞こえてきます。たとえば私は最近、お渡ししたパンフを引きちぎって投げつけられました。患者さんも辛い中で必死に受診してくださっているのですから、そんなことになるのは残念なのですが、私たちも心のある人間なのでどこまで許容すべきかという線引きはとても難しい。このように落としどころも難しく進まなかったアンケートを、いまよくぞ始めてくれたと拍手をしたいと思います」

それはそれとして、現在の最大人口を占める団塊の世代が更年期の「まっただ中」にいる今、新たな取り組みをしないと、永遠にこのままになってしまうことを危惧していた太田先生。

「やっと重い腰を上げて取り組んでくれましたので、アンケートにももちろん意見をたくさん述べたいと思っています。我が国の現在の最大人口である『団塊ジュニア時代』が更年期を経験している『現在』が、更年期の医療とはどうあるべきかもういちど考える最後のいいチャンスかと思います」

更年期症状はどう「移り変わっていく」のか?汗から始まり、血液検査の値が変わり…

患者数を見てみると、日本における更年期障害の有症者数は720万人と推定されます。当該年齢900万人のうち80%何らかの症状を有するというデータからこの数値とさせていただいています。これは月経痛の患者数より少し少ないくらいです。比較すると、GSM(閉経関連尿路性器症候群)症状は1860万人*1、骨粗鬆症は1180万人。認知症600万人、乳がん9万人、子宮頸がん1.1万人と予想されています。

加齢に伴うエストロゲン欠乏症をトータルで見ると、「コレステロール、血糖、HbA1c、血圧が上がり」「動脈硬化や血栓症が進行して」「心臓発作や脳卒中になる」という一連の病状の流れが見えてきます。それと同様に近い未来に骨卒中「ボーンアタック」、すなわち骨折も起こります。心臓発作「ハートアタック」、脳卒中「ブレインアタック」と同じくらいのインパクトがあるのです。若い頃の骨折と、年齢を重ねてからの骨折は意味が全く違い、高齢者では生命予後が脅かされます。簡単に言うと、年を取ってから骨を折ると命に係わるのです。

ここで「まさか介護要因の第一位をお忘れではないでしょう?」 ということで出てくる疾患が認知症です。

じつは我が国では認知症患者数の正確な診断と把握ができていません。そのため解析も不十分であり、治療をはじめとする対策もこれからの課題です。これは大問題です。高齢化率が世界で独走している我が国において、十分に治療されていない骨粗鬆症も厄介なお荷物ですが、対応法が定まっていない認知症も厄介なお荷物と言わざるを得ないでしょう。それだけ介護負担が増すことになります。

デリケートゾーンのかゆみ、頻尿、尿漏れ、腟の乾燥感、性交痛などの「GSM」も長く続く症状です。更年期障害はある時期を過ぎると治まるのに対し、GSMは生涯にわたってQOLや健康寿命に影響を及ぼし、加齢とともに進行さえします。

女性ホルモンのエストロゲンの1つ、エストラジオール(E2)の濃度と、生体反応の出現・抑制には密接な関係があります。生体反応とは局所的・全身的な体の防御反応で、例えば乳がんはわずかな量のE2でも反応してしまいます。一方で、内膜症性卵巣嚢腫や子宮筋に子宮内膜症が存在する子宮腺筋症は、E2値が50pg/mL(ピコグラム)以下だと抑制できます。

30pg/mLくらいに下げるのが筋腫の治療薬ですが、乳がんの場合は5pg/mLまで、つまり枯渇するほどエストロゲンを下げる必要があります。一方、E2を下げ過ぎると骨粗鬆症リスクが上がりますが、20pg/mL程度あれば大丈夫。こんな具合に、生体反応が出現する閾値、エストロゲンに対する感受性によって、セラピューティック・ウィンドウ(治療域)が疾患ごとに違うのです。

更年期症状を「治療している人」はどのくらいいる?骨粗鬆症は?

「閉経後に発症しやすくなる疾患」の認知率を見てみましょう。認知率は病名を知っているかどうか、治療率は治療しているかどうかで、乖離がないことが好ましいと言えます。我々の3000人を超える調査によると、骨粗鬆症や、のぼせ・ほてりなど血管運動神経症状などは認知率が60%近くと高いのですが、骨粗鬆症は認知している人の4分の1しか治療していません。

GSMに至っては、細菌性腟症や過活動膀胱が治療可能な病気であるとの認知率は10%前後しかありません。これらの疾患は高齢化に伴う疾患のため世界的にもまさに過小診断・過小治療の状態であると言わざるを得ません。

同様に、更年期症状による仕事のパフォーマンスへの影響も数値的に見てみましょう。更年期症状が「なにも影響ない」という人はわずか5%くらいで、残りの95%は何かしらの影響があると答えています。パフォーマンスが半分以下に低下すると答えた人が46%もいる、そのくらい仕事に対する影響が大きいと言われています。

経産省「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査」(2021年)によると、2025年時点のフェムテックによる経済効果は約2兆円/年と推定され、この内訳は月経分野よりも妊娠・不妊分野が大きく、さらに更年期分野が最も大きくて、約1.3兆億円にも及ぶとされています。

厚労省「国民健康・栄養調査」(2019年)で更年期症状への対処法を見てみると、「何もしていない」が64%、「市販薬使用」が15.1%、「医療機関での処方薬」が8.6%です。あまりにもノーガードすぎて、ヘルスリテラシーの向上は必須です。これは女性の皆さんに苦言を呈しますが、行政や医療に任せっぱなしにせず、皆さんもヘルスリテラシー、すなわち、ある特定の分野に関する知識を理解し、それを有効活用できる能力を養ってください。

 

先ほどの認知率と治療率の話に戻ると、骨粗鬆症は患者数1300万人中、治療していない人が1000万人もいます。ボーンアタックに見舞われる未来を考えれば、今すぐリテラシー向上は必須です。「予防に勝る治療はない」と言いますが、現代は骨粗鬆症が治る時代にもなってきました。わが国では薬剤費は保険でカバーされているので、骨粗鬆症は2割負担の場合に1日20円くらいの薬でじゅうぶん予防できるのです。

つづき>>>ホットフラッシュの新薬「ベオーザ」に期待が集まる。婦人科以外でも処方する科がぐっと増えるかもしれない

*1 ohta.H et al.BMC Women’s Health 2023

お話/婦人科医・医学博士 太田博明先生

1970年慶應義塾大学医学部卒業。80年米国ラ・ホーヤ癌研究所訪問研究員、91年慶應義塾大学産婦人科講師、95年同大学産婦人科助教授、2000年東京女子医科大学産婦人科および母子総合医療センター主任教授。その後国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授、山王メディカルセンター・女性医療センター長就任し、19年より3年間藤田医科大学病院国際医療センター客員病院教授を兼務、21年より現職の川崎医科大学産婦人科学特任教授、川崎医科大学総合医療センター産婦人科特任部長を務める。日本骨粗鬆症学会元理事長、日本骨代謝学会および日本女性医学学会元理事・監事を務め、日本抗加齢医学会では元理事、前監事を務める。国内の女性医学のパイオニアとして今なお第一線での研究と啓蒙を続ける。1996年日本更年期医学会(現日本女性医学学会)第1回学会賞受賞、2015年日本骨粗鬆症学会学会賞受賞(産婦人科医で初受賞)、2020年日本骨代謝学会学会賞受賞(産婦人科医で初受賞)。著書多数、近著に『若返りの医学 ―何歳からでもできる長寿法』ほか。最新刊はPHP新書『死ぬまで歩ける骨をつくる!本当は怖い「骨卒中」の防ぎ方』。

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