
こんにちは、再春館製薬所の田野岡亮太です。
この冬の冬至の期間は2025年12月22日から2026年1月4日。
1年に二十四めぐる「節気」のありさまと養生について、ここ熊本からメッセージをお送りします。
【田野岡メソッド/二十四節気のかんたん養生】
冬至の頃に起きる「溜まる・つまる」を解消してくれる働きの味は…
冬至は「冬の折り返し」でもあるのですが、ここから寒さが厳しくなる暦が続きます。自然をとりまく環境が寒い空気に包まれると、人間を含めた動植物は来春に向けてエネルギーを貯めはじめます。人間ではこの働きは“腎”の機能が担当しています。腎の機能は精(エネルギー)を「貯める」ことをしますが、意図せず「溜まる」が生じてしまうこともあり、身体の中での流通障害につながってしまいます。中医学では「味にも働き・効能がある」と捉えていて、溜まったものの流れを良くする働きが期待できる味を“鹹味(かんみ)”と呼んでいます。塩っぱい味のことです。
鹹味は、身体で生じた固まりを和らげる・消して散らすという働きと、腎の機能の経絡に働きかける、という特長があります。寒い冬に精を貯める腎の機能において流通障害が起こってしまったら…。そんな時には鹹味が最適ですね。
鹹味は塩っぱい味…。では、食塩を多めにすれば良いのか?ご存知のとおり、塩分の摂取量が多くなりすぎると高血圧などの別の病気の要因になってしまいます。
鹹味は「天然の塩っぱい味の食材」「海のミネラル成分・塩分を含む味覚」と理解してもよいかもしれません。海のものでミネラル成分を含んでいるものというと、わかめ・昆布・ひじき…と海藻類が挙がります。他には、うに・牡蠣などの貝類も鹹味に分類されます。「海のミネラル成分」と言えば、季節は異なりますが“海水浴”も元々は海のミネラル成分を利用した治療目的で広まったそうです。「生物は海から生まれてきた」と言われますし、身体のバランスを整えるには鹹味(=海のミネラル成分・塩分を含む味覚)が自然の摂理に適っているのかもしれません。
塩分は「摂取し過ぎない方が良い」と言われますが、塩味を減らし過ぎると「美味しく感じられない」となることもあります。そんな時は“酸味”を使ってみるのもおススメです。
例えば、ポテトサラダを作る時の塩分を半分に減らし、その分の塩味を補うようにリンゴ酢を少し加えてみる…そんな引き算・足し算をしてもしっかりとした味になります。後がけ調味料として使うしょうゆをポン酢しょうゆに替えてみるという活用も美味しく塩分を減らせる方法のひとつです。
中医学は「整体観念」という考え方を大切にしています。人は宇宙や自然から影響を受ける存在であり、すべてのものが互いに影響し合って生命を営んでいるという考え方です。この「すべてのものが互いに影響し合って営んでいる」の部分は、口から身体に摂り入れる“食材”についても当てはまると考えています。
つまり、自然に存在している状態で食材を構成する成分が互いに影響し合うから“効能”が期待でき、単一成分だけを精製して取り出したものは身体の中でバランスを崩す要因になりやすいと解釈することが出来ます。偏り過ぎると身体の不調のもとになってしまいます。せっかく摂取するのであれば、身体に効能がある形で摂りたいですね。
この考え方は、東洋医学の「一物全体(いちぶつぜんたい)」という言葉にもあらわれています。生命あるものを栄養としていただく時は“丸ごと”いただくという考え方です。自然界のものは「複数の成分が混在した状態」で存在しているので、人間の身体に摂り入れる時も「複数の成分が混在した状態」で摂り込むことが良いとされています。
冬至の時季に食べておきたいものは、じつはこの海産物なんです。「えびのニラソースかけ」

この時季に食べておきたい意外な食材は、鹹味の海産物“えび・クラゲ”です。その他に“腎・膀胱の機能にうれしい食材”でおススメなのは、えりんぎ、ニラ、帆立、昆布、ねぎなどが挙がります。
これらの“腎・膀胱の機能にうれしい食材”を使ったおススメレシピの1つ目は「えびのニラソースかけ」です。身体に熱を補ってくれる「温性」の海鮮食材として想起No.1の“えび”に、さらに「温性」の食材を組み合わせてレシピにしてみました。
作り方は、まず“具材”を作ります。えび(10尾)の殻をむいて背ワタを取り、酒(大さじ2)・塩こしょう(少々)で下味をつけます。玉ねぎ(1/2個)は幅5mm程度の薄切りに、えりんぎ(1本)は縦に細く割いて3cm程度の長さに切ります。玉ねぎ・えりんぎ・ニラ(根元の3~4cm部分)を合せて、熱したフライパンにごま油をひき、塩(小さじ1/2)・薄口しょうゆ(小さじ1)を加えて炒めます。続けて、えびを同じフライパンで色が変わるまで炒めます。
次に“ニラソース”を作ります。ニラ(1束:葉の部分)をざく切りにして、水(300ml)・ベビー帆立(5~10個)とともにミキサー(またはフードプロセッサー)にかけてペースト状にします。これを鍋に移して、しょうゆ(大さじ1)・みりん(大さじ3)・酒(大さじ4)・塩(小さじ1/2)・粉末昆布(小さじ2)を加えてひと煮立させたら、水溶き片栗粉(片栗粉:大さじ1)でとろみをつけます。
お皿にニラソースを敷き、炒めた具材を盛りつけたら出来上がりです。見た目はバジルっぽいですが、味は意外にも和風です。
えびは「身体を温めて気を補い、腎の機能を助ける」働きが期待できます。“温める”と“腎の助け”がそろっている身近な食材なので、寒い時季にはやっぱりおススメしたくなります。えびと合せた玉ねぎは「身体をめぐる気・血・水分のめぐりを良くする」働きが、ニラは「身体を温め、気・血・潤いのめぐりを良くして、腎の機能を助ける」働きが、えりんぎは「身体に気と潤いを補い、血と潤いのめぐりを良くする」働きが期待できます。そして、玉ねぎ・ニラは身体に熱を補ってくれる「温性」の食材、えりんぎも少し熱を補ってくれる「微温性」の食材なので、玉ねぎ&ニラ&えりんぎは“身体を温める食材トリオ”です。「温性」のえびにさらに「温性」の食材を組み合わせてレシピに…と先ほど紹介させていただきましたが、えびに組み合わせたのはこちらの“身体を温める食材トリオ”のことでした。
そして昆布は「身体の水分のめぐりを良くして、詰まりを取り除く」働きが期待できます。ニラソースの味に深みを加える目的で粉末昆布を入れましたが、昆布も鹹味の食材なので、意図せず溜まってしまった身体の中の流通障害を取り除いてくれます。また、えび+身体を温める食材トリオで「温性」に偏り過ぎるのも身体のバランスに影響を与えることもあるかと思い、「寒性」の昆布を少し加えることでバランスを取ったレシピになりました。
意外な食材「生クラゲ」と白きくらげ、ベビー帆立を組み合わせて「クラゲと菊花の和え物」

2つ目も腎・膀胱の機能を補うレシピとして「クラゲと菊花の和え物」を紹介します。クラゲは食材としてはあまり馴染みがないと思いますが、スーパーでは塩水と一緒にパッキングされた袋状で販売されている食材です。この時季におススメの「意図せず溜まってしまった身体の中の流通障害」に働きかけてくれるので、身近な食材になって欲しいと願ってレシピにしてみました。
クラゲは袋から出し、水洗いして5cmほどの長さに切ります。ベビー帆立(4~5個:生食用)は粗みじん切りに、白きくらげ(5g:乾燥)はキノコですので1分ほど湯通しをしてから3cmほどの大きさにちぎります。菊花(適量)もサッと湯通ししておきます。細ねぎは小口切りにしておきます。
鍋に酢(50ml)・きび砂糖(大さじ1)・塩(小さじ1/3)を入れて、きび砂糖が溶けたら火を止めて、生クラゲ・ベビー帆立・白きくらげ・菊花を入れて混ぜます。器に盛りつけて、上から細ねぎをふりかけたら出来上がりです。
クラゲは「身体の水分のめぐりを良くして詰まりを取り除き、肝の機能を助け、咳を鎮める」働きが期待できます。クラゲの味は鹹味(かんみ)なので、わかめ・昆布・ひじきと同様に塩っぱい味です。これらの海藻類は「寒性」で身体を冷ます性質がありますが、クラゲは[平性]で身体を冷ましも温めもしません。寒さがピークに近づく冬至の時季なので、「身体の詰まりを取り除く(=鹹味)」けれど「身体を冷まさない(=平性)」食材なのでオススメレシピにしてみました。
一緒に合わせたベビー帆立は「身体に潤いを補って肝と腎の機能を助ける」働きが、白きくらげは「身体に血を補ってめぐりを良くし、肺に潤いを補って咳を鎮め、便通を良くする」働きが、菊花は「腎の機能を助けて目の疲れを改善する」働きが期待できます。
ベビー帆立・白きくらげ・菊花がクラゲと一緒になることで、「補った血・潤いのめぐりを良くして詰まりを取り除き、腎と肝の機能を助けて、目の疲れ・咳・便通を改善する」働きが期待できるレシピになります。最後にふりかけた細ねぎは「体表の寒さを散らして身体の気のめぐりを良くする」働きが期待できます。さらに“気”への働きかけも加わりましたね。
食材を合せるとそれぞれの効能が作用し合って身体へのメッセージがより明確になるところが“薬膳の醍醐味”と感じています。
次回は“寒の入り”の小寒です。
連載中の「田野岡メソッド」が書籍になりました!
「身近にある旬の食べ物が、いちばんのご自愛です!」 田野岡メソッド連載で繰り返し語られるこのメッセージが、1冊の書籍にまとまりました。近所のスーパーで手に入る身近な食材を使い、更年期をはじめとする女性の不調を軽減する「薬膳」を日常化しませんか?
日本の漢方では「その症状に処方する漢方薬」が機械的に決められていますが、本来の中医学では症状と原因は人それぞれと捉えます。それに合わせた効果的な食事を「薬膳」とし、食で養生するのが基本なのです。
田野岡メソッドに触れると、スーパーの棚が「薬効の宝庫」に見えてきますよ!





