20歳のとき、高校の同級生の行方がわからなくなった。仮にMちゃんとする。
【私の更年期by三浦ゆえ】
どこにでもあるのかもしれない、ないのかもしれない、連絡がとれなくなったひとりの友人のお話
私は彼女と2年生のとき同じクラスで、部活も一緒だった。陽気なキャラで、いつも笑いの中心にいるムードメーカー。読書家で、いつも文庫本を何冊か持ち歩いているという一面もあった。
卒業後、私は東京の大学に出て、彼女も県外の大学に進学した。それでも必ずまた会うのだろうと思っていた。誰から聞いたのかは忘れたけど、「Mちゃんと連絡が取れない」とあちこちから耳に入るようになったのは、大学2年生の夏休みだったと記憶している。
帰省していないだけとか、たまたま連絡が行き違ったとか、そういう話ではなさそうだった。1990年代半ば、ポケベルは流行りはじめていたけれど、携帯電話はまだ一般に普及していない時代。遠方の友人と連絡を取り合う手段は、固定電話か手紙だった。周囲の友人の誰も、それで連絡がつかないという。
結局私は、高校卒業後、Mちゃんに一度も会っていない。同級生同士で集まると、たびたび「Mちゃんどうしているか知ってる?」と名前があがった。みんな、Mちゃんが好きだったのだ。誰もが首を横に降り、「そっか、どこかで元気ならそれでいいんだけど」とあいまいなことを言い、話が終わるのが常だった。
30年間わからなかった友人の消息をやっと聞けた。思いもよらない結末で
今年の夏、「命の危険が暑さです」を何度聞いたかわからない。私が高校生だったころより日本の夏は確実に暑くなっていて、年月のぶん衰えてしまった中年の体力ではとてもついていけない。在宅での仕事が多いのをいいことにずっと引きこもっているつもりだったけど、郷里で高校の同窓会が7年ぶりに開かれるというので、帰省した。
100人以上が出席する同窓会。7年前は、担任の先生方が5人ほど出席されていたが、今回は1人だった。なかには鬼籍に入られた先生もいるのだろう。卒業してから32年。あらためて、自分たちの年齢を思い知る。
会場の入口で会った友人に、さっそく「Mちゃんって、いまどうしてるか知ってる?」と聞かれた。私のなかで、Mちゃんの情報は30年間一度も更新されていない。
大人になるとヘンなものわかりのよさが出てきて、「人には人の事情があるんだから、あんまり詮索しないほうが……」と思うものだ。そうして今回も、何人もの同級生がMちゃんの行方を気にしながらも、踏み込まずに終わるのだろう。そんなふうに思っていた。
ところが宴もたけなわといったころ、旧友のひとりがあらたまった顔で話しかけてきた――「Mちゃん、20歳のときに亡くなっていたんだって」。
その旧友とは、私とMちゃんと同じ部活だった女性で、同窓会では幹事を務めていた。県内で結婚し、子を産み、育て、仕事もつづけているので、顔が広い。彼女はその20年前の訃報を、Mちゃんの地元の人から聞き出したという。
なぜ亡くなったのか、どうして高校の同級生には誰も知らされなかったのかは、わからない。そこは親御さんの意向が大きく働いているのだろう。
まだティーンだった彼女が、もしかして受けたかもしれない強い強い衝撃。その内容とは
私は、ある噂を思い出していた。20歳のときに聞いた、「Mちゃんは、サークルに入るときの“セレクション”にショックを受けて、大学に行かなくなったらしい」という噂。
“セレクション”を覚えている読者は多いだろう。大学のサークルで新入生を勧誘するとき、主に男性の上級生が女性の新入生の容姿を見て、メンバーとして迎えるかどうかを判断するというものだ。
私が進学した女子大では、近隣の大学とのインカレサークルがほとんどだった。入学してからしばらくは、正門から講堂までの短い並木道で山ほどの勧誘チラシをもらう。そして、「話だけでも聞いてってよ!」と手を引かれ、近くのテントに連れていかれる。そこですでに“セレクション”が行われているとは、知らないままに。
乱暴な時代だった、女性をなんだと思っているんだ(怒)と、いまの私は思うけど、当時は圧倒され、流された。“セレクション”を通過したことに、私は安堵した。
過剰適応もいいところだが、田舎から出てきたばかりの19歳、都会でのひとり暮らし、新しい人間関係……すべてうまくやらなければと必死だった。受験が終わったばかりでもある。「落とされる」のはイヤだった。自分のなかにたしかにあった、女性だけが容姿で選別されることの苦さには、目を向けないようにした。
その後開かれる新入生歓迎会では、男子上級生が“セレクション”を通過した新入生女子をさらに品定めし、一方で新入生男子は酔い潰れるほど飲まされていた。新入生の大半は未成年である。上級生の女性は、彼らを介抱する係だった。
いまは未成年飲酒が厳しく取り締まられ、大学でも飲酒の強要はやってはいけないことだと周知されるという。いまから30年前は、「新入生は潰れるまで飲ませる」が常識だった。飲んで、吐いて、先輩に気に入られ、サバイブできた男子学生が、無事上級生になったあかつきには、女子学生を品定めする権利が付与されるーー世間知らずの1年生である私にも、そんなシステムが見えてきた。もう一度言うが、ほんとうに乱暴な時代だった。
流されてサークルに入った私だが、この“ノリ”についていけず、夏には顔を出さなくなっていた。
ここまでの記事では三浦さんが体験した入学当時のお話を伺いました。続く関連記事ではこれらの行為がまだ尾を引く昨今について伺います。
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