モラハラ・夫婦問題カウンセラーの麻野祐香です。
夫婦の間で、最も人に言いづらい問題のひとつに「性的DV」があります。
「夫婦だから仕方ない」「拒めないのは自分が悪い」と思い込み、誰にも打ち明けられずに苦しむ女性は少なくありません。
今回は、普段からモラハラと“フキハラ(不機嫌ハラスメント)”を繰り返し、夜には性的DVを強要してくる夫に耐えてきたA子さんの事例をご紹介します。
※本人が特定できないよう設定を変えてあります
※画像はイメージです
「ほんの数十分だから…」と心を無にして耐える夜
結婚当初の夫はとても優しい人でした。気遣いの言葉もあり、「大切にされている」と疑いもしませんでした。元々性欲は強い人だと感じていましたが、それも愛情表現のひとつだと思っていたのです。
しかし、いつしか様子が変わっていきました。私が熱を出していても、体調が悪くても関係を迫るようになったのです。いくら「具合が悪い」と伝えても、「大丈夫、すれば治るから」と、私の気持ちは一切無視されました。
妊娠がわかった後も、安定期前であっても関係を求められ、お腹が大きくなってからも変わらず迫られました。切迫早産で入院したとき、心のどこかで「やっと夫が迫ってこない」とホッとしたのを覚えています。
本来なら入院生活で心細さを感じる場面のはずですが、病室は夫から体を求められない「唯一の安全な場所」でもあったのです。
出産後、体がまだ回復していないうちから、「妻なら応じて当然」と自分の欲求を押しつけられました。
「入院中ずっと我慢してきたんだからな。俺に浮気してほしくなかったら、きちんと妻としての役目を果たせよ」
夫がそう言った言葉は、今も忘れられません。
さらに夫はいつも避妊をしてくれませんでしたので、出産後まもなく妊娠が発覚しました。
「年子でも産みたい」と訴えた私に、夫は「今じゃない」と言い放ち、中絶を決定。「お腹の赤ちゃんに申し訳なくて、自分を責め続けてしまいました」。
中絶手術の日でさえ、夫は体を求めてきました。その後、1人は出産したものの、さらに2度の中絶を余儀なくされたそうです。
拒めば異常な剣幕で怒鳴られ、無表情でいれば「冷たい女だ」と責められる。だからA子さんは、感情を消し、「気持ちのいいふり」をして、その時間が過ぎるのを待つしかありませんでした。
なぜ「優しかった夫」が、こんなにも変わってしまったのか?
カウンセリングに来たとき、A子さんは中絶の体験について、涙を流しながら話してくれました。
「結婚当初は優しかったのに、どうしてこんなことになったのでしょう」
多くの被害者が同じ疑問を抱きます。心理的に見ると、モラハラ男性の“優しさ”には次のような背景があります。
・仮面としての優しさ
交際時や結婚当初は、相手をつなぎとめるために「理想の夫」を演じます。
・逃げられない状況で本性が出る
結婚や出産は、妻が経済的にも身体的にも弱い立場になる時期です。
「もう離れられない」と確信したとき、抑えていた支配欲や攻撃性が表面化します。
・対等に見ない価値観
妻を“所有物”として扱うため、相手の体調や気持ちより自分の欲望を優先してしまうのです。
一見すると「性欲が異常に強い人」に見えるかもしれません。しかし、性的DVの本質は欲望の発散ではなく、「相手を支配しているという感覚そのもの」にあります。相手が嫌がっているのに従わせることで、「自分は上に立っている」「思い通りにできる」という優越感を得る。だからこそ、体調が悪いときでも、出産直後でも、中絶手術の日でさえ迫るのです。
単に欲求を満たしたいだけではありません。妻が顔を背けても、涙を流しても、「結局は逆らえない」と思わせることに快感を感じ、その姿を見ることで「支配が完成した」と満足する。これは愛情表現ではなく、相手を無力化し、恐怖やあきらめの表情から優越感を得る行為です。そこにあるのは愛や思いやりではなく、“自分の欲望こそ最優先”という歪んだ価値観だけ。
性的DVの本質は「性欲の異常」ではなく、「支配欲の異常」です。それは相手の人間性を奪う暴力であり、性を使った支配にすぎません。決して「夫婦の営み」ではないのです。
本編では、結婚当初は優しかった夫が、体調や妊娠・出産に関わらず性的DVを繰り返すようになった経緯と、その本質が「性欲の異常」ではなく「支配欲の異常」であることについてお伝えしました。
▶▶ 夜だけでなく日常も支配される。子どもを脅しの材料にされて離婚もできず、徐々に追い込まれた私は
では、A子さんが日常的に受けていた“フキハラ”や経済的支配、そして離婚をためらう理由についてお届けします。