せっかくご縁があって結婚した男女ですが、統計上、3組に1組は離婚するようです。2023年の厚生労働省、人口動態統計によると結婚は47万組ですが、離婚は18万組です。
このように約30%の確率で結婚生活を続けられなくなるのですが、同居したまま離婚に至る夫婦は少数派(全体の3割)です。同居を続けられないほど夫婦関係が悪化し、まずは別居し、別居先で離婚をむかえる夫婦が多数派(7割)です。(厚生労働省の2020年、「離婚に関する統計の概況」)
わずかな期間の別居を経て離婚するケースもありますが、筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして2万組以上の夫婦の相談にのってきました。その経験上、年単位で別居を続けている(しかも離婚しない、できない)ケースも多いのです。
今回、取り上げるのは別居3年目の大島聖さん(40歳)。まだ離婚しておらず、夫の戸籍に入っているけれど、全く連絡をとっておらず、ほとんど音信不通の状態。このような「半離婚」の状況で他の男性を好きになり、「好きです」と言い、付き合い始めても大丈夫なのでしょうか?彼との関係を夫に知られ、「不貞」扱いされ、慰謝料を請求されるリスクがあるのですが、聖さんはそのことを知りませんでした。具体的に見ていきましょう。
<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)>
夫:新垣清人(44歳)→派遣社員(年収350万円)
妻:大島聖(40歳)→正社員(年収550万円) ☆今回の相談者
夫の交際相手:金城美弥(年収不明)LINEのアカウント名「みゃー子」
妻の交際相手:北村裕哉(年収450万円)妻の勤務先の同僚
なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また夫婦の年齢や年収、夫の不倫が発覚するきっかけや別居に至る流れ、妻が同僚男性と仲良くなる経緯などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。
【行政書士がみた、夫婦問題と危機管理 #11 別居編】
たった2年で結婚生活は破綻
まず夫との結婚生活はどうだったのでしょうか?わずか2年間の同居生活だったそうです。聖さんは「誰にだって間違いはあると思うんです。でも、間違えたら、きちんと反省して、ちゃんと謝って、『二度としない』って約束するのが当然だと思うんです。でも主人は違いました」と振り返ります。
二人が知り合ったのはマッチングアプリ。夫の給料は聖さんより低く、お金に余裕がないので、デートはいつも聖さんの部屋。聖さんは家賃8万円の賃貸に住んでいたのですが、週末のたびに夫が居つくようになり、最終的には夫が聖さんの部屋に転がり込む形で結婚したそうです
聖さんは結婚して以来、夫との「常識」の違いに悩まされていました。一例を挙げると妻帯者が愛しても良いのは妻一人だけ。それ以外の女性に目がくらんではいけません。筆者は「万が一、その女性と関係を結んだ場合、離婚の原因になり得ると法律に書かれていますよ(民法770条1項1号)」と補足しますが、そんなふうに唯一無二のルールです。
しかし、夫は違います。妻より大事な人がいれば、妻を捨てて、最愛の彼女に乗り換えてもいい。本気でそう思っており、机上の空論ならともかく、実際に行動に移そうとしていたのです。
百歩譲って、人が人を好きになるのは仕方がないとしても、意中の女性と付き合い始めるのは、妻と正式に離婚し、独身に戻ってからです。既婚者にもかかわらず、配偶者以外への燃えたぎる愛情を抑えられないのなら、それは人間の男性ではなく動物のオス。しかし、夫は順番を守らず、わがままに生きることを悪いとは思わない性分なのです。
聖さんが夫とファミレスでランチをしているとき、夫のスマホにこんな通知が届いたのです。「昨日はありがとう。ずっと一緒にいたかったよ。愛してる!私の大事な人」と。送信の主は「みゃー子」。女性であることは明らかでした。聖さんが「これは何なの?」と尋ねると、夫は「誰だっていいだろ!」と逆ギレ。不機嫌な感じで席を立つと、会計もせずに店外に逃げていったのです。
後で分かったことですが、みゃー子は夫の元彼女。聖さんと結婚する前に付き合っており、きちんと別れないまま、ずるずると関係を続けていたようなのです。
夫は「お前のことは彼女も知っているよ。彼女には『結婚するまで』って言っておいたんだ。でも、なかなか納得してくれなくて…」と弁解するので、聖さんは「それじゃ、ちゃんと別れてね!どっちが大事か分かっているでしょ?!」とお灸をすえたのです。
元カノとの関係を知ってから、体調に異変が!
夫の不誠実な女性関係を目の当たりにして、聖さんのメンタルが無事だったわけではありません。聖さんは夫のニヤついた顔が脳裏をよぎるたびに、身体に異変が生じるようになったのです。例えば、お腹が痛くなったり、胸が苦しくなったり、喉が焼けるような感じがしたり……。筆者は「きっとストレス反応ですね」と説明しました。
もっとも酷いときは心臓の鼓動が激しすぎて、息ができずに窒息してしまうのではないか。そんなふうに錯覚するほどの衝動に悩まされていました。
聖さんは「このまま死にたくない!」という一心でエナジードリンクを一気飲みしたり、外食先で激辛料理を注文したり、イヤフォンで大音量の音楽を流したり…と、自分を奮い立たせるようなことばかりしていました。「あのときは無理やりテンションをあげることで、夫のことを忘れようとしていました」と聖さんは回顧します。
しかし、夫は相変わらず、みゃー子と連絡を取り合っているようで、なかなかきっぱり別れるという約束を守ろうとしません。聖さんが「どうなっているの?」と確認すると、「お前との仲が上手くいっていないから、彼女が必要なんだ。彼女に話を聞いてもらうことで、家庭が円満になるなら、それでいいだろ?」と独りよがりな持論を展開したのです。これではどちらが本命で、どちらが浮気なのか分かりません。
聖さんは「自分が何を言っているか…分かっているの?あなたのやっていることは不倫なのよ!」と断罪したのですが、夫は「僕は誰でもいいわけじゃない。彼女が必要なんだ!」と本心を暴露し、家を飛び出したきり戻ってこなかったのです。
実際のところ、聖さんも直近の半年間は性生活がなかったことを後ろめたく思っていました。そのせいもあって、即座に夫のことを責められず、出ていこうとする夫を引き留めることに躊躇したそうです。
家を飛び出した夫とは音信普通のまま3年が過ぎ…
このように夫は妻である聖さんではなく、元彼女であるみゃー子のほうを選ぶという暴挙に出たのですが、聖さんは「主人にとって私は何だったの?」と思い悩み、夫に対して「戻ってきて」と促したり、「もう一度、話したい」と頼んだり、「もう離婚してください」とあきらめたりするなどの行動を起こさなかったそう。
筆者が「なぜですか?」と尋ねると、聖さんは「正直なところ、ホッとしました。主人が帰ってこないと、こんなに気持ち的に楽なの⁉…って!」と振り返ります。
別居するまでは家賃や水道光熱費、保険料の引き落としは聖さんの口座。食費等もすべて聖さんが負担する代わりに、夫が毎月、給料日に5万円を渡す形で暮らしていました。現在、夫は住んでいないので、これらの費用はかかっておらず、聖さんに生活費を渡す必要はありません。とはいえ、聖さんと夫は“一応”は夫婦です。半ば強引に別居状態にさせられたという経緯があるにせよ、必要最小限のやり取りは必要でしょう。
別居したことで、夫が負担していた毎月の生活費ももらわないのが聖さんにとっての平常になっていきました。お金のことでやり取りをする必要はなく、夫婦でありながら音信不通の状態に。そんなふうに何の進展もないまま月日が流れ、3年が経過したとき。思いもよらぬトラブルが発生したのです。
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