高齢者医療にたずさわる精神科医、和田秀樹先生。先ごろご政治団体「幸齢党(こうれいとう)」を立ち上げ、今夏の参院選に候補者を10人擁立したいと発表しました。オトナサローネでおなじみ、女性医療クリニックLUNAグループ理事長の関口由紀先生、医療ライターの熊本美加さんらもそのうちの1人です。
いま私たちが向き合うべき課題は何なのか、40代・50代女性の目線でお話を伺ってみると……?
(TOP画像左から、和田秀樹先生、熊本美加さん、関口由紀先生)
性差ある男女が「同じコレステロール値」を目指すべきなのか?根拠がなさすぎる日本の医療政策
「40代、50代女性に対する医学や健康常識は嘘が多い。その代表がやせ強要です」
こう語り始めた和田先生。なるほど、やせ強要はいまとりわけ若い世代で問題になっています。
「太め、コレステロール値が高めはダメだと言っていますが、実は性差があります。女性は1/4ほどしか心筋梗塞にならない、なのに男性並みに下げろと言う。とんでもない、逆に女性の老化を早める危険があるのに。実はたんぱく質、コレステロールは老化予防のために必要です。思い出してください、みなさんの周囲でも、栄養状態のよい、肉をたくさん食べている女性のほうが若々しいでしょう?」
はい、私たちは10代から今日までずっとずっと、常に「あと3やせねば」と考えてきましたが、50代に入るとややふっくらした人のほうが肌にハリもあり、快活で元気ですね。
「でしょう。このやせの価値観は、1960年代にモデルのツイッギーが登場して急に変わったものです。それまではマリリン・モンローのようなグラマーがよかったし、グローバルではグラマーに回帰している。そんな中、ツイッギーの価値観が世界でいまだに残っているのが日本です。残念なことに、やせたまま、腰が曲がってよぼよぼしながら長生きさせられているのが日本女性ということです」
言われてみると、フレイル・ロコモ問題は閉経にさしかかるころからにわかに現実的な問題として感じるようになりました。自分が老人の入り口に立っていることが少しずつ見えてくるからでしょうか。
「そのいっぽうで、日本人は規範意識が強いせいでしょうか、恋をしない。男女ともども性的な体験をすることは女性男性ホルモンを増やし、最終的に健康につながるのにです。性については先進国で唯一、いまだポルノが禁止されている状態。こうしたタブーを少しでも減らして心理ハードルを下げないと、その先がいつまでもラクになりません」
確かに、男性ホルモンは女性にも分泌されますが、テストステロンはテロメアという生命の切符を保護するとも考えられています。でも、そうした難しいことを言うまでもなく、「楽しいことがあればあるほど健康長寿につながる」というのはごくごく当然のこと。当然すぎて考えたことがなかったかもしれません。
「ですが、これからの世代であるにもかかわらず、40代50代には介護が大きくのしかかってきます。先ごろ訪問介護の点数が下がりましたが、このように日本の医療政策は薬や検査には手厚いのに、人の手がかかる部分、介護などには極めて薄い。私は医療改革を断行することで無駄な医療費を5兆円削り、そのうち1兆円を介護労働者200万人の給与に回すことを考えています。すると年収約50万のアップになり、就労者も増える可能性があります」
医師・医療関係者中心の政党ならではの目線で現実的な医療改革を設計し、無駄な医療費をカットするのが「幸齢党」のスタート地点。つまり財源が「ある」状態でのスタートですから、実現性が極めて高いと和田先生は言います。
1・医療改革の断行。無駄な医療費を減らし、一般労働者の手取りも関与者給与も増やす
2・高齢者を元気にする施策をとる
「我々は医療を主軸にしたワンマター政党。各候補者が他の分野にどのような意見を持っていてもいい、ただ医療改革に関してだけは全員の意見が強く一致している、そういうプロ集団なのです」
「女性を幸せにするため男性も幸せにしたい」女性医療の専門家が考えたワケ
「私は女性の健康のために女性医療を30年以上がんばってきましたが、中高年になって『女性を幸せにするためには、男性も幸せにしないと』ということがわかってきて」
こう語るのは関口由紀先生。
「『高齢者を元気にする』という点で、日本には高齢者差別が確かにあります。たとえば、元気ならいつまでも現役でいていいのに『下が育たないから辞めろ』。引退なんて必要でしょうか、死ぬ直前まで働くのはアリだと思うのです。私自身は『ピンコロ』、ピンピン生きてコロリと死ぬ人生を目指しています。95、6歳まで元気に暮らし、死ぬ2週間前までは車も運転して、パートナーとデートして、自分のことは自分でやって、そしてコロリと死にたい。こう考えたとき、これが実現する社会は自分の手で作らないとならないと気づきました」
そんな関口先生、最近になって約30年ぶりに車の運転を始めたことが気づきのきっかけになったと語ります。
「驚きました、昔よりも格段に運転しやすくなっていて。ナビの誘導通りにするだけで、車庫入れも縦列駐車もできてしまいます。私の認知が悪くなっても車がよければ運転できる、つまり自動運転をしっかり整備すれば高齢になってもずっと運転できるということですよね」
40代50代は女性にとっていわば「リボーン」の時期でもある、と続けます。
「生まれ変わるこの時期に、生活疾患の予防策と、何が健康によくないのかの知識を蓄え、しっかり食べてしっかり運動、しっかり恋もする日本にしたいのです。恋は案外と重要ですよ。異性の目があったほうが若く元気を保てるのは事実です。自分で自分をきれいに保つとともに、人の目、特に愛する人の目を意識するのはとても大切、高齢者が楽しい社会のほうが若い人だって未来が明るいですよね。ピンコロで亡くなる人を1人でも多くするのが私の目標です」
いいですよね! 間違いなくみんな、ギリギリまで元気に楽しく生きて、コロっと世を去りたいはず。ですが先生、女性には相対的に健康寿命が短いという宿命がのしかかります。
「その通り、2022年時点で、女性の平均寿命は87.09歳、対して健康寿命は75.45歳。つまり人生のラスト約12年を介護受けて過ごす計算ですが、この要介護期間を5年、あるいは半分に縮めたい。相当医療費も減ります。寿命延伸よりも『健康寿命延伸』が重要なのです」
免許返納を迫った結果、要介護率が2.2倍増加してもいいのか?もっとできることがあるのに
「健康寿命はとても大事なこと。もう一つ条件があるんですよ。運動しろと言われても、生きていくことが楽しくないと誰も続けない。楽しいということはとても重要なのです。なのに日本は1件交通事故を起こすと残り全員免許を返納しろと言われてしまいます。高齢者は3700万人いますが、その中で要介護は15%、要支援が3%、合計18%だけが人の手を借りていて、残り82%は自立高齢者なのです。免許を取り上げることは単なる運転の制限ではなく、暮らしの楽しみ、脳への刺激の減弱です。結果的に要介護率が2.2倍上がるというデータが出ているのに、池袋の事故では当然疑うべき運転障害薬服用の話がまったく出ませんでした。おかしなことです」
こう語る和田先生に、関口先生が続けます。
「マスコミのみなさんはどうにも若い人のことを気にしすぎだと感じます。私は泌尿器科医で尿漏れに関する取材をよく受けますが、『若い人にも尿漏れが増えている』というコメントを引き出そうとするメディアが多くて(笑)」
産後の尿漏れ以外は、単に高齢者が増えているから尿漏れ人口が増えているだけのことではないんですか?
「はい、単に高齢者が増えているからです。なのに『若い人が困っている』と言わせないとビジネスにならないと固く信じている。じつは2025年に日本人女性の半分が50歳以上になりました。しかし、男性やメディアはいまだ50歳以下を女性の典型として見ていて、50歳以上を女性と捉えていないですよね。半分以上が50歳以上なのですから、50歳以上に向けたサービスがもっとあってしかるべきなのに、そこはプアなんです。これも意識を変えていかねばならない課題です」
和田先生が続けます。
「24年には日本の人口の半分が50歳以上になりました。女性のほうが長生きするのでここに1年のギャップがあったんです。なのにずっとイシューは子育て支援でいいのか、50歳以上の娯楽を拡充する、介護に金をかける、やらないとならないことがあるのにいまだ少子化対策以外の話をしない。この遠因にもうひとつ、日本人が技術の進歩を信じていないということもあります」
どういうことでしょうか、私は技術の進歩を激烈に信じているのでちょっと意外なのですが……。
「大阪万博がつまらない理由がこの、技術大国のわりに技術を信じない点にあると思っています。免許返納問題も、高齢者が安全に運転できる車をつくる話が先に出てこなかった。事故が怖いというならばドローンアシストで歩道橋を渡らせる技術も考えられますし、料理しかり入浴しかり、自分をベッドに乗せることだって、ロボット化できれば私たちは施設に入らず自宅で自分のケアをしてピンコロを目指せます。なぜ、そういうものを作ろうとする人がこの技術大国をしてまったく出てこないのか。これは間違いなく日本の悲劇だと思うのです」
なるほど、技術というのはロケットや通信など「社会に関わること」で、自分個人をラクにしてもらうという発想があまりなかったかも……? 料理を代替してもらえれば私だってラクになりますし、ぎっくり腰のときにベッドに乗せてくれたら本当に助かります。オトナサローネでも義母の介護をしながら執筆活動を続けるライター・小林真由美さんの介護連載が大人気ですが、いっぽうで介護離職がいまだ年に10万人いるということも見過ごせない事実です。
「幸齢党が目指す改革の1つに、人間を全身から診られる総合診療医の育成があります。いっけん一般社会に関係がなさそうな提言ですが、薬の出しすぎや不適切な処方で起きている社会的問題の元凶は臓器別の診療科診察。身体を総合的に診ることで、現在の検査数値が悪ければすぐ多剤処方を行うもぐらたたきのような医療を減らすことができ、急務である医療費削減がかないます。過剰な医療費を削減し人件費に充てる、その間に技術進歩を促し自動化も推進する、この両輪が重要なのです」
和田先生、とても納得のいくお話です。関口先生も同様にお考えなのですね?
「実は私も、自分自身が政治に関わるとは思っていませんでした。ですが、テーマが『高齢者』なのなら、私がやるべきだなと感じて。更年期ごろはまだ女性としての悩みがありますが、閉経後3年たつと女性は『悩む女性』から『元気な女性』に変貌することが医学的にわかっています。これからあと40年も生きる私たちが『元気な女性』になったとき、幸せになるには自分が先がけて社会を変える努力をしないとならないと思ったのです。50代以降はこれまでのくびきを外れて自由な自分になるのですから、まずは自分が楽しくなれたらと。この思いを40代50代の皆さんと共有できたら嬉しいです!」