行政書士、ファイナンシャルプランナーの筆者は、20年間で2万件以上の離婚相談を受け持っています。「ええ!離婚したの?!」と後ろ指を刺されるのは今や昔。統計上、3組に1組の夫婦は離婚しています。(2023年、厚生労働省の人口動態統計。結婚が47万組。離婚が18万組)。
とはいえ、「私、離婚したのよ」と堂々とカミングアウトできる人は少ないでしょう。では、友人や同僚はどのようなきっかけで離婚の「バツ」に気付くのでしょうか?
例えば小学生の子どもがいる家庭の場合、同級生の苗字が学期の途中で変わったときに「離婚したのかな?」と気づくはず。あとは学校書類で保険証を提示する際、今まで父親の扶養に入っていたのに、母親の扶養に移って保険証が変わったときなども「あれ?」と思われがち。ほかにも、地元を離れて大学進学や就職をして結婚した旧友の場合、突然、夫不在で地元に戻ってきたときも、離婚の可能性を感じとるはずです。
そんな離婚をした人々に対して、「離婚のお金」はタブー中のタブーです。「お子さんの養育費って毎月いくら?」「ご主人の貯金を分けてもらったんですよね?」「女を作って出て行ったって聞いたわ。慰謝料も結構、いただいたんでしょ?」なんて恥も外聞もなく質問するのは野暮すぎます。そのため暗黙のルールとして、離婚にともなうお金の話はNGワード化しているのです。
離婚した先輩は教えてくれないし、そもそもこちらも聞こうとしない。だから、いざ自分が離婚するとき、何を参考にしていいか分からず、途方に暮れるのです。
【行政書士がみた、夫婦問題と危機管理 #9】
離婚で受け取るお金、払うお金。相場はいくら?
もちろん、ある程度の相場はあります。まず養育費ですが、妻が子どもを引き取って育てる場合、夫は毎月、決まった額の養育費を払わなければなりません(民法766条)。家庭裁判所が公表している算定表によると夫の年収が700万円、妻が130万円、子どもが9歳と7歳の場合、毎月11万円が妥当な金額です。
次に財産分与ですが、結婚している間、夫婦で築いた財産は夫名義でも妻名義でも、夫婦の共有です(民法762条)。しかし、夫婦が離婚する場合、夫と妻で財産を分け合います(民法768条)。妻にも半分の権利があるのは夫の代わりに家事や育児をやっている場合です。世帯主が40代の場合、貯蓄額の平均は1,320万円です。(2024年10~12月期の家計調査)仮に貯蓄がすべて結婚以降に貯まった分なら、妻の取り分は660万円です。
そして慰謝料は精神的苦痛の対価で(民法709条)離婚の原因を作った側が支払わなければなりません。離婚・離縁事件実務マニュアル(東京弁護士会法友全期会家族法研究会)によると結婚10~15年の場合、438万円が平均値です(平成10年の司法統計年報)。
しかし、これらの数字はあくまで目安にすぎません。筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっていますが、必ず相場の金額をもらえるのなら誰も苦労しません。どの夫婦も立場は対等ではないので、夫婦間の力関係が影響し、相場が捻じ曲げられてしまうことも多々あります。
離婚を渋る夫に効果的な交渉術とは?
特に厄介なのは夫が離婚を拒んでいる場合です。その理由は「子どもを片親にしたくない」「まだ気持ちの整理がつかない」「お前の思い通りにはさせないぞ!」など様々ですが、どうしても夫を説得できない場合、最終的には「お金で釣る」しかありません。先ほどの例でいうと養育費を毎月11万円から8万円、財産分与を660万円から460万円、慰謝料を438万円から300万円へ下げることで、「相場より有利なんだから離婚してよ!」と投げかけるのです。
裁判所を通さずに離婚するには夫の同意が必要なので仕方がありません。とはいえ、本来もらえる金額をやみくもに下げるわけにはいきません。離婚したら人生終了ではなく、離婚しても続いていきます。日々の生活、子育てにはお金がかかりますし、最低限の備えも必要です。あまりにも値切りすぎて日々の暮らしに支障が出るようでは本末転倒です。
このように考えると離婚とお金は相関関係にあるのが分かるでしょう。なるべく金額を下げず、夫を納得させるにはどうすれば良いのでしょうか?
今回の相談者・小磯麗奈さんも「できるだけ早く離婚したいけれど、先立つものも必要だし…」というジレンマを抱え、「落としどころ」をどうすべきかを悩んでいました。何があったのでしょうか?
なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また夫婦や子どもの年齢、不仲の理由やマンション購入の資金計画、そして離婚の条件(養育費や財産分与など)は各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。
<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)>
夫:小磯栄一(44歳)→会社員(年収800万円)
妻:小磯麗奈(42歳)→会社員(年収500万円) ☆今回の相談者
子:小磯里奈(9歳)
共働きなのにずっとワンオペの妻、もう限界!
麗奈さんは内科クリニックで働く看護師で平日休み。一方、夫は製薬会社で働くMRで土日休み。最初の頃、家事の役割分担について話し合ったりせず、特に約束もないまま、なぁなぁで結婚生活が始まってしまったそう。麗奈さんが働き、夫が休んでいる土日でも、夫は料理、洗濯、掃除などの家事をやろうとせず、麗奈さんに任せきり。結局、夫が働き、麗奈さんが休んでいる平日に、麗奈さんが家事の全般をやらなければならず、それが当たり前になっていました。
麗奈さんは「くたくたで帰ってきたのに、主人が晩御飯ができるのを待っているんです……。お腹が空いているなら自分で作ってよ!そう言いそうになったには一度や二度じゃありません。私は主人のお母さんじゃないんですよ」と思わず、愚痴をこぼします。
筆者が「旦那さんは休日に何をしているのでしょうか?」と尋ねると、麗奈さんは「一人で自室にこもり、VRゲームに熱中しているようなんです」とため息をつきます。
ある日のこと。麗奈さんが帰宅し、ボロボロの身体に鞭を打って何とか夕飯を準備したそう。そして夫の部屋を開け、「できたよ!」と声をかけたところ、夫はなぜか激怒。「今、いいところなんだ。邪魔だから!」と怒鳴りつけた上で「勝手に入るなよ。今度からLINEでいいから」と言い捨てたのです。
麗奈さんは「家政婦さんだって、顔をあわせたら『ありがとう』って言うじゃないですか。私は一度も言われたことがありません」と肩を落とします。筆者は「残念ながら、旦那さんにとって家政婦以下なのでしょう」と励ましました。このような夫の態度は子どもが産まれてからも変わりませんでした。
「夕飯はまた総菜か」「言われる前に片付けようよ」「予報をチェックしないから、せっかく洗濯した服がずぶぬれだ」と、事あるごとに麗奈さんの家事に難癖をつけるのは相変わらず。結局、結婚から12年間、麗奈さんはキレそうになってはグッとこらえるという日々を過ごしてきました。一触即発の連続でした。
それでも麗奈さんが我慢を続けている限り、平行線のまま、のらりくらりと結婚生活が続くだろう。このときは「離婚」の二文字が頭をよぎることはなかったそう。しかし、夫は大事に至らないのをいいことに、わがままに拍車をかけたので、のっぴきならない事態が発生したのです。
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<出典>
2023年、厚生労働省の人口動態統計
2024年10~12月期の家計調査