ゲーム、アニメ、ドラマ等の劇伴・BGMを制作する作曲家の夏海ルイさん。もともとバンドでベースを担当し作曲も行っていたが、バンドの解散後、就職を考えていたところに所属していた音楽事務所からの誘いがあり、商業音楽の作曲を始めたという経歴を持つ。YouTubeでは機材紹介や楽曲分析、作曲家の日常のリアルなど、一般の人にも楽しめる内容を配信している。 今回のデスクツアー動画では、さまざまなDTM用機材と並び一般的な仕事環境にも役立つヒントが満載だ。今回は夏海さんへの直接取材でさらに情報を深掘りした。大量の機材を載せる、IKEAのダイニングテーブル 夏海さんの使うデスクは、PCデスクではなく実はIKEAのダイニングテーブル。コストを抑えつつ、鍵盤やスピーカー、オーディオインターフェースなど、一般的なPCデスクでは載りきらない大量の機材を載せるための選択だ。DIY用の白い壁紙シートを貼って使っている。 しかし、ダイニングテーブルは天板の裏に「幕板」という補強用の板があり、モニターアームを取り付けることができない。そこで、あえてディスプレイスタンドを設置してモニターアームを取り付けた。モニターはLGの29インチウルトラワイドディスプレイだ。大型だがスピーカーなしモデルのためお手頃価格で購入。 デスクツアー動画ではモニターの下にiPadを置き、ピアノロールやミキサーを表示させて使う様子が紹介されていたが、理想は16インチ程度のサブディスプレイを追加してデュアルディスプレイにすることだという。ただし、メインで使用中のMacBook Pro(M1)が2面出力に非対応のため、実現するにはMacから買い換えなくてはならないのが現在の悩みどころとなっている。Razerの左手デバイスをMacでヘビーに使い込む 左手デバイスとして愛用するのは、RazerのTartarus V2だ。32個のキーと8方向パッド、スクロールホイール搭載。左手を置いたままノールックで高速に操作を続けるヘビーユーザーに最適なエルゴノミックデザインで、ゲーマーだけでなく動画やイラスト・マンガのクリエイターからも評価が高い。 一番のポイントは、単純な機能・ツールの割り当てだけでなく、複数の連続した操作を1つのコマンドで実行する「マクロ設定」が可能な点だ。例えば「ミディで打ち込んだデータをオーディオ化して、下のトラックにコピー&ペーストする」といった一連の操作を1つのキーに割り当てることができる。 ただし、メーカー純正の設定用ソフトがMac非対応のため、夏海さんは無料のキーバインドアプリ「Karabiner-Elements」を使ってカスタマイズ設定を行ったという。それでも「導入して一番よかったデバイス」だと評価する。音楽制作だけでなく、動画編集でも効率化に貢献しているそうだ。膨大な音源データを格納するSSDは、サンディスク一択 MacにはHDDが1台、SSDが2台接続されている。HDDには膨大な完了した仕事のデータやYouTubeの動画データを保存し、Macのバックアップにも使用。SSDには主に楽曲制作に使う音源のプラグインを保存している。大きなものでは1TBを超えることもあるそうだ。なおかつ、PC本体で動かす作曲アプリケーションからリアルタイムで読み込むために、速度も重視。DTMerには必須のアイテムなのだという。ポモドーロ用タイマーは仕事の“とっかかり”におすすめ 個性的な小物と共にモニター下に並んでいるのは、ポモドーロ法特化型タイマー「Ticktime Cube」だ。ポモドーロ法とは、仕事25分+休憩5分を4セット繰り返すことで集中を維持するメソッド。Ticktime Cubeは、セットして置いたら25分カウント、ひっくり返して5分カウント、サイクルの回数表示など、ポモドーロ法に特化したさまざまな機能を搭載している。 夏海さんは常に計測するというより、集中できないときに頑張る目的で使っているという。気が散っていても、タイマーがスタートしたら一旦は25分間仕事に向き合うことができる。始めれば自走できるものの、最初の“とっかかり”がつかみにくい人に向いているだろう。ついダラけがちな在宅ワークに取り入れてみたいメソッドだ。好みとこだわりと実用の選択、キーボードとトラックボール 現在使用中のキーボードはKeycronのK2で、キータッチが軽めの赤軸を選択。病院で医師が使用しているようなレトロなキーボードに似た配色も気に入っているという。そして、「デバイスが新しくなるとちょっとやる気が盛り返す」という理由で時々取り替えるのが夏海さん流だ。選択肢は「青軸を使うかもしれないし、Apple純正を使うかもしれない」と幅広い。タッチの感覚が変わると打ちづらそうにも思えるが、「そこはこだわらないDTMerは多い」そうだ。そんな中で夏海さんがこだわるのは「75%キーボード」(テンキーなし・ファンクションキーあり。ノートPCに主流の配列)という点だ。 また、マウスではなくトラックボールを使っているのもこだわりのポイント。もともとDTMではトラックボールが使われるケースが多く、音楽スタジオのデスクにあるのはほぼトラックボールだという。現場でまごつくのが嫌で日頃から慣れておこうと取り入れたケンジントンのトラックボールを長年愛用している。実際、DTMでは画面の端から端まで移動するような動きが多く、マウスよりもトラックボールの方が向いているようだ。動画編集の操作にも近い部分がある。 どのデバイスも、実用性がありつつ夏海さんの好みやこだわりが垣間見える。自分の“好き”をわかって選ぶ、クリエイターらしさが表現されたデスクだ。