邦画にアニメーション映画、ハリウッドのアクション大作がひしめく中で、公開規模は小さくとも観る人の心に刺さる良質な洋画をいかにアピールし、その存在を人々に知らしめ、興味を持ってもらうか? 配給・宣伝会社の宣伝担当の腕の見せどころと言える。今回、【映画お仕事図鑑 番外編】として、11月に公開される4本の洋画のそれぞれの宣伝担当者による座談会を開催! 担当作品の紹介、および宣伝方針を語ってもらうと共に、同業他社の宣伝部員が自身の担当作品以外の作品の魅力や宣伝戦略について語り合うという、なかなかない企画が実現した。後編では11月22日(金)公開の『ドリーム・シナリオ』、11月29日(金)公開の『JAWAN/ジャワーン』について語り合う!<座談会参加者>株式会社サーティースリー 奥村(『ドリーム・シナリオ』宣伝担当)株式会社ツイン 松本(『JAWAN/ジャワーン』宣伝担当)映画宣伝会社 樂舎 渡辺(『動物界』宣伝担当)株式会社ウフル 青木(『ぼくとパパ、約束の週末』宣伝担当)『ドリーム・シナリオ』(11月22日公開)宣伝担当・株式会社サーティースリー 奥村プロフィール:約16年、在籍した前職の宣伝代理店では『ジョン・ウィック』シリーズや『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』などを担当。個人的にも好きなホラー系の映画の宣伝を多く担当するほか、ジャンル映画を手掛けることが多い。今年の春に現在の会社に転職し、最初に宣伝を担当したのは『ルックバック』。奥村 『ドリーム・シナリオ』についてご紹介させていただきますが、その前にこれを着けさせていただきます。奥村 このアイマスクが(製作会社の)A24から100個くらい送られてきまして…(笑)。『ドリーム・シナリオ』は、ニコラス・ケイジ演じる大学教授・ポールがなぜか人々の夢の中に現れるようになったことでものすごい人気者になるんですけど、ある日を境に夢の中のポールが悪さをするようになり、大炎上してしまうんですね。ポール自身は何もしてないのに人気絶頂を迎え、何もしてないのに大炎上してしまうというお話です。『ミッドサマー』、『ボーはおそれている』のアリ・アスターが製作として参加していて、『シック・オブ・マイセルフ』という、承認欲求モンスターの女性を描いたスリラーを撮ったクリストファー・ボルグリが監督を務めています。ポイントとしては、たくさんの人々の夢の中にポールが出てくるというある種の都市伝説的な設定と、何もしていないのに大人気になり、大炎上するというSNS社会の恐ろしさが凝縮されているというところ。ニコラス・ケイジは特殊メイクもして本作に臨んでいるんですけど、彼自身、ある意味で“ミーム”化されてきた俳優ですよね。インタビューでも「ポールの気持ちがよくわかる」と言ってまして、自身も知らないところで勝手にニコラス・ケイジTシャツが売られたり、映画の中の怒っているシーンを切り取った動画がバズって困惑した経験をしているんですよね。そういう意味で非常に彼とマッチしている作品だと思います。日本における彼の映画の宣伝でも、ニコラス・ケイジ=“ニコケイ”みたいな感じで面白いじりをする宣伝に走りがちなところってあったと思うんですけど、僕は今回「そういういじり方はしない!」と宣伝チームに宣言しまして、あくまでも本格派の俳優がここまでの演技をやっているというのを見せていきたいなと考えています。試写でのマスコミの評判も上々で、SNS社会について考えさせられるという声もありますし、何より主人公ポールが「かわいそう」という声が多いですね。松本 本当にかわいそうですよね。渡辺 切なくなりました…。青木 本当に彼自身は何もしてないし、周りが勝手にいろいろ動いた挙句に人生が流転していくという恐ろしい映画ですよね。ネットミームで「This Man(ディス マン)」という多くの人の夢に出てくる男の都市伝説があるんですよね。奥村 「世にも奇妙な物語」にも同じような話がありましたね。宣伝として、そこまで特別なことは仕掛けてはないんですけど、ひとつだけ、この作品を担当することが決まった時から、“夢”の映画ということでやりたいと思っていた施策がありまして…(笑)。青木 これは全部持っていきますね…(笑)。奥村 “夢”コラボはしたいなと思っていて、オピニオンに関しても、ゆめっち(3時のヒロイン)や平山夢明さんにもお願いしています。青木 「特別な仕掛けはしない」と言いつつ、しっかり仕込んでいますね(笑)。奥村 作品そのものの面白さ、正当な部分は担保しつつ、こういう企画ものも入れ込んでいろんな角度で作品を訴求できればと考えています。青木 勉強になります!!(笑)。奥村 ビジュアルに関しても、ティザーはニコラス・ケイジを前面に出して「この男を夢で見ませんでしたか?」という設定を押し出し、別のチラシでは、炎上して堕ちていくポールを見せるという見せ方をしています。青木 (チラシにある)「悪夢で、逢いましょう」というキャッチも書体がおどろおどろしくなくてかわいらしく見せているのが良いですよね。奥村 ホラー作品もダークに打ち出し過ぎると、そのまま受け止められて狭めてしまう部分があるので、ちょっとした“隙”というか“ギャップ”を出すのは意識していますね。『JAWAN/ジャワーン』(11月29日公開)宣伝担当・株式会社ツイン 松本プロフィール:以前は韓国の配給会社の日本支社で宣伝を担当。現在の会社でもアジア映画を中心に宣伝を行なっており、『RRR』、『バーフバリ』シリーズなどのインド映画をはじめ、韓国、中国の作品を担当。松本 『JAWAN/ジャワーン』はインドの大スターのシャー・ルク・カーンが主演して、本国でも大ヒットを記録しました。ご存じかと思いますが、既にインドは映画大国となっており、世界を相手に戦っておりまして、この作品も初日世界興収22億円、最終興収200億円となっています。青木 インドだけで5,000スクリーンで上映されているんですよね。渡辺 すごい!松本 インド映画にはいわゆる、ムンバイで制作されるヒンディー語映画の“ボリウッド”と『ムトゥ 踊るマハラジャ』を生んだタミル語の“コリウッド”という映画産業がありますが、本作はこの“ボリウッド”と“コリウッド”が融合した新しい映画なんです。映画はまさに”観る”というよりも“体感する”映画で、『RRR』のように見せ場はスローモーションを使用するなど劇画タッチの演出がとても面白いです。七変化的な感じでシャー・ルク・カーンが変装をするので、いろんなシャールクが見られるのもファンには堪らないかと思います。青木 予告のPVも映画の中の役名じゃなくて「シャー・ルク・カーンが帰ってきた!」みたいな打ち出し方なんですよね(笑)。松本 歌詞自体が「シャー・ルク・カーンが歩けば…」みたいな感じですから(笑)。青木 日活の映画で「石原裕次郎が帰ってきた」みたいな感じですよね。松本 まさに日本で言う石原裕次郎ですね。奥村 あのダンスのシーンだけでも圧巻でした!松本 1000人の中で踊ってますからね。青木 CGを使わずに全員が生身でね。奥村 観ていてクセになる感じがありますよね。松本 『RRR』の「ナートゥ・ナートゥ」と同じですよね。パワーで押し切ってます。青木 インド映画とそれ以外の作品だとやはり宣伝の方向性とかテンションは変わってくるものですか? インド映画のほうがよりコアなファンが多く、お客様の顔が見えやすい部分はありますよね?松本 ありますね。そういう層を意識して宣伝をする部分はありますし、ある種のベタなくどさみたいな部分が他の洋画にはないインド映画の魅力だと思うので、そこは前面に出していく感じですよね。青木 さっきも1,000人の中でダンスという話がありましたけど、以前はハリウッドが担っていたフィジカルなスペクタクルという部分をいまはインド映画が担っているところはありますよね。松本 ハリウッドの良い部分をうまく吸収して、以前よりも洗練されて見やすくなって成長している部分があるかと個人的には思っています。奥村 進化し続けていますよね。『ムトゥ』の時代があって、その後のCGが異様に進化した『ロボット』(2010年)の時代があり、最近では『バーフバリ』、『RRR』で熱いアクションと流行る曲も入っていて…。松本 インド映画の面白さって「週刊少年ジャンプ」なんですよね(笑)。「友情・努力・勝利」――すごく漫画的なんです。奥村 かたや『きっと、うまくいく』や『スタンリーのお弁当箱』のような良質なドラマも育っていますよね。青木 洋画って、一度公開されたら実稼働の宣伝ってあまりないんですが、インド映画はマサラ上映(※応援上映の一種で紙吹雪や鳴り物もありの上映)をやったり、いろいろありますよね。松本 そこは今回もぜひやりたいなと思っていて、紙吹雪をまくと掃除が大変で怒られちゃうんで(笑)、紙吹雪はなしで、でもいろいろやれたらと思っています。ただ、以前はコアなファン層が多かったインド映画が『RRR』や『バーフバリ』などで一般的になってきた広がりをすごく感じています。インド映画の武器ってやはり“体感型”という部分だと思います。劇場で観ないとなかなか楽しさが伝わって来ないと思うので。もちろん、以前からボリウッド映画のファンの方々がすごく熱いので、一番のターゲットはそういう方たちになります。先日、代々木公園で行われた「ナマステ・インディア」というフェスでもすごく多くの方が集まってくださいました。青木 ツインさんがインド映画でやっている、コアなファンとのコミュニティの構築みたいなことは、いろんなタイプの作品をやっている僕らには難しい部分もあるかもしれないけど、でも実はすごく大事な正しいやり方なんじゃないかって思いますね。松本 そうしたコアなファン層に加えて、映画自体がものすごい大作であり、映像もなかなか見られないすごいものなので、そういう部分を押し出して、若い人たちに届くようにしたいですね。あとは『RRR』や『バーフバリ』など神話を元にしていたり、ゲームの「Fate」でもインドの神様が出てきたりもするので、そういう部分を通じてライト層にも広がっていく部分があるのかなと思います。青木 以前よりも見やすくなっているという部分が大きいですよね。松本 上映時間約3時間でも全く飽きさせないですからね。そこはすごいですよね。青木 そろそろ時間になりますが、同時期に公開される洋画について、こうやってお話しする機会というのも普段、なかなかないですが、いかがでしたか?奥村 それぞれの作品の特色を活かして、みなさん、いろいろと考えて宣伝をされていて、聞いてて刺激になりました。青木 奥村さんの仕込みに全部持っていかれましたけど(笑)。あれはズルいよね。奥村 いやいや(笑)。ただ、青木さんが最初におっしゃっていた「物語を売る」というのが宣伝の神髄なんだなと改めて思いました。「アリ・アスター製作」とか「ニコラス・ケイジ主演」と打ち出しつつも、それはスイッチに過ぎなくて、みんな何が見たいかっていうと、“物語”なんだなと。物語の部分が実際どうなのかっていうところが一番、お客さんの鑑賞意欲をかきたてるところだと思うので、それを忘れない宣伝が大事だなと思います。松本 本当にその通りですね。勉強になりました。