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進化続ける29歳

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8日まで東京辰巳国際水泳場で行われたロンドン五輪選手選考日本選手権。今回は五輪派遣標準記録で1、2の選手が選ばれる。
日本水泳連盟は当初ロンドンへの35程度の選手派遣を想定していたが、クリアーしたのは27選手となった。一発勝負だけに昨夏世界水泳代表の200m背泳ぎ酒井志穂は0.13秒及ばす。また男子1500mの世界水泳代表宮本陽輔は6位で落選。全体的に厳しい結果になった。
その中で100m、200m平泳ぎで4大会連続出場を決めた北島康介の活躍には、改めて目を見張らせた。

2004年アテネ五輪で平泳ぎ100、200mで金メダル獲得。その後、心身ともに疲労を抱えたまま練習を始め、一時は円形脱毛症になった。
この教訓もあり、北京でダブル連覇の後は、まったく違う環境の中で心身をリラックスさせた。米国に渡り一年後、野球のWBCや競泳日本選手権を観戦。
世界と再び戦いう気持ちが強くなる。当初はロサンゼルスの市民プールでならし練習していた北島。そんな時に南カリフォルニア大のサロ競泳ヘッドコーチを紹介される。
サロコーチは北京で2人の金メダリストを誕生させた名コーチ。育ての親の平井ヘッドコーチも快諾した。サロコーチのもとで、南カ大のプールで指導を仰ぐようになった。当面の目標は2010パンパシフィック。日本選手権に出場し出場資格をめざす。100mでは立石に次ぐ2位。得意の200mでは決勝でまさかの4位。100mまでは先頭だったが、150mで立石に抜かれ最後は4位。2分12秒13と自己ベストに5秒も遅れた。

パンパシフィックに出場した北島は、100、200mで優勝。本番ではしっかり結果を残す勝負強さを見せた。しかし11年の日本選手権。100は2位。200は7位に沈んだ。そして臨んだ上海世界選手権。両種目ともに銀メダルだった。200mはハンガリーのダニエル・ギュルタと白熱の戦いでメダルを逃した。しかし100mではノルウェーのダーレオーエンに大きく離され4位に沈んだ。これは北島にとって大きな屈辱となったはずだ。

「パワーだけじゃ外国選手には勝てない。水中でいかにいい体のポジションを維持し低抵抗で進めるか」
再び渡米しサロコーチとともに再起に挑んだ。

万全を期して臨んだこの大会。先ず100m決勝で日本新記録。200mでは世界選手権優勝時のダニエル・ギュルタの記録を上回る2分8秒07。ともに1位で4度目の五輪出場権を手にした。
今回の注目は前年の世界選手権で屈辱を味わった100m。前半からスピードを上げ50m27秒20のダーレオーエンに対し27秒69まで上げた。最後の10mで少し浮いたが、それでも記録は世界記録の58秒58に0.32差だった。それが日本新記録に繋がった。

「100mは強い選手がいたからそれを追いかけるという気持ちでやってきた。こういう強い気持ちを持って五輪に臨みたい。200mで2分7秒台前半を狙うのであれば、まだ強化も必要。それが何なのかはだんだん見えてきている」と言う。

進化し続ける愛弟子の泳ぎを、平井コーチは「達人の域」と評価。北京五輪8冠のマイケル・フェルプスは心身のピークを大一番に合わせてくる北島のしたたかさを「彼の精神力の強さはずば抜けている」と絶賛している。

一発勝負の代表選考会でそれを証明した。29歳でも進化続ける北島。凄い男だ。頼りになる男が戻ってきた。

※写真はイメージです。
[ビハインド・ザ・ゲーム/スポーツライター・鳴門怜央]
《NewsCafeコラム》
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