モラハラ・夫婦問題カウンセラーの麻野祐香です。
モラハラ夫は、自分に都合の悪い言動を「なかったこと」にしてしまいます。責任を妻に押し付け、自分は被害者のような顔をする。そして、見栄や外面を異常に気にし、妻を振り回すことが少なくありません。
今回ご相談いただいたFさんの夫も、まさにその典型でした。
責任転嫁はモラハラ夫の得意技
Fさんの家庭では、夫から毎月渡される食費は4万5千円。家族4人でやりくりするには厳しい金額ですが、Fさんは日々、見切り品や特売品を選び、努力して節約しています。
ある日、夫と一緒にスーパーへ行った際のこと。夫は、1,500円のバター、高級海苔、高級フルーツなど、次々と高価な食材をカゴに入れていきました。
Fさんが「そんなに買ったら、今月の食費が足りなくなるよ」と伝えると、夫は「うるさいな、俺が食べたいんだからいいだろ」と一蹴。結局そのまま会計を済ませ、案の定、大幅な予算オーバーに。
そして数週間後。生活費が足りなくなったFさんが「少し使いすぎたかもしれない」と切り出すと、夫は突然、不機嫌に。
「は? なんでそんなことになるんだよ!」
Fさんがやんわりと「この間、スーパーで高いもの買ったから」と伝えると、
「お前のやりくりが下手なんだろ! 俺が好きなもの食べるのもいけないのか?」
と怒鳴られました。
自分の浪費は正当化し、すべてをFさんの責任にする……。このような「責任転嫁」は、モラハラ夫に多く見られる特徴です。
モラハラ夫が妻に責任を押しつける4つの心理的な背景
まず、彼らは「自分が悪い」と認めることを極端に嫌がります。もし自分の非を認めてしまえば、「自分はダメな人間なんだ」と感じてしまい、自己否定の感情に直面することになります。その不快さを避けるために、無意識のうちに責任を他人――つまり妻に転嫁してしまうのです。
また、モラハラ夫には「自分こそが被害者だ」と思い込みやすい傾向があります。「妻のせいで俺が苦労している」といった認識を持ち、自分が悪いわけではなく、むしろ理不尽な目にあっているのだという構図を作り上げることで、自分の立場を正当化しようとします。
さらに、相手を支配したいという欲求も根底にあります。責任を妻に押しつけることで、「自分が上の立場だ」「妻をコントロールできている」と感じ、そこに安心感を得るのです。これは、力で相手をねじ伏せるというよりも、心理的にじわじわと支配しようとする、非常に巧妙で厄介な形です。
そしてもうひとつ、罪悪感に耐えられないという側面もあります。妻が傷ついていたり、家計が苦しかったりしても、それが自分のせいだと直視することは、モラハラ夫にとってあまりにもつらい現実です。だからこそ、「自分が悪いのではない」「悪いのは妻だ」と思い込むことで、自分の中にある罪悪感をごまかそうとするのです。
Fさんは、悔しさとやりきれなさでいっぱいです。夫の浪費が原因なのに、なぜ自分が責められるのか――。それでも、「またか」と思ってしまうほど、こうしたやり取りが日常化していることが、より深刻な問題を物語っています。
「自分が好き勝手に買い物をしたことは、全て正当化。そして悪いのは私って……」
Fさんは、いつものことだと思いながらも、悔しさが込み上げてきました。夫が自由にお金を使った結果なのに、なぜ私が責められるの?とやりきれない思いでいっぱいでした。
プライドがエベレストより高いモラ夫、外ではにこやかで
Fさんの夫は、金銭感覚の問題だけでなく、異常なまでにプライドが高く、他人の目を気にしてばかり。見栄を張るためなら、平気で妻を振り回すような言動も日常茶飯事でした。
ある日、Fさんが夫とショッピングモールへ出かけたときのこと。ブランドショップのショーウィンドウに並ぶバッグを何気なく眺めていると、店員さんが声をかけてきました。
「とてもお似合いですよ」
その言葉を聞いた瞬間、夫は店員さんを意識してか、急に気前のいい夫を演じ始めました。
「買ってやるよ」
店員さんはにこやかに「素敵なご主人ですね」と言い、夫は「君にとても似合うよ」とさらに調子を合わせてきます。
もちろん、Fさんにもその場の空気は読めていました。けれど、そんな高額な買い物をしてしまえば、後でどんなことになるかは目に見えています。だからFさんは、やんわりと断りました。
「私の欲しいものとちょっと違うから、ごめんなさいね」
お店を出た瞬間、夫の態度は一変しました。
「買ってやるって言ってるのに、俺に恥をかかせるのか?」
突然の睨みつけに、Fさんは思わず息を呑みました。高価なバッグを断ったのは、家計を考えてのこと。夫の見栄のために、そんな大きな出費はできません。
実際のところ、夫は本気で買うつもりなどなかったのです。ただ、店員の前で“太っ腹な理想の夫”を演じたかっただけ。もしあのまま購入していたら、後日、支払いのタイミングでFさんが責められるのは目に見えています。
「お前のものなんだから、自分でなんとかしろ」と怒鳴る、そんな未来が想像できてしまうからこそ、Fさんはあの場で断ったのです。
にもかかわらず、夫はその後も何度もこう言い続けました。
「お前のせいで、みっともない思いをした」
Fさんは、胸の中で静かに思いました。
この人は、店員の目や世間体ばかりを気にしていて、私の気持ちなんて、1ミリも考えていないのだ、と。
異常な見栄っ張り、その裏にある心理とは?
では、なぜモラハラ夫はここまでプライドが高く、見栄を張るのでしょうか? その背景には、いくつかの心理的要因が潜んでいます。
まずひとつは、他人から「すごい」と思われたいという強い承認欲求です。モラハラ夫は「立派な人」「できる男」と見られたいと強く願います。しかし、実際には自信や実力がともなっていないことが多く、そのギャップを埋めるために見栄を張るのです。高級な物を買ってみせたり、知ったかぶりをして偉そうに語ったりするのは、自分を「すごい人」として演出する手段にすぎません。
また、「負けること」への異常な恐怖もあります。自分が間違っていると認めることは、「劣っている」と認めることに等しいと感じるため、どんなに非があっても言い逃れをしようとします。嘘をついてでも自分の正しさを主張し、自分の優位性を保とうとするのです。
さらに、幼少期の家庭環境の影響も関係しています。モラハラ傾向のある人は、子どもの頃に過剰に甘やかされたり、逆に親から十分な関心を得られなかった経験を持っている場合があります。そのため、「すごい自分」でいないと愛されないという思い込みが根づき、大人になってからも見栄で自分を武装するようになります。
加えて、「弱い自分」を見せたくないという防衛本能もあります。自信がないからこそ、偉そうに振る舞い、「自分は強い」「自分は正しい」と思い込みたい。その結果、家庭内では「お前は間違っている」と繰り返し妻を否定し、自分の立場を保とうとするのです。
そしてもうひとつ。外面を異常に気にするという特徴も見逃せません。家庭の中では妻を罵倒しても、外ではにこやかに「良き夫」を演じる。これはすべて、「周囲の評価」に縛られているから。自分の評判を守るためなら、平気で家族を犠牲にするのです。
本編では、「プライド」と「見栄」をキーワードに、モラハラ夫の責任転嫁や外面重視の行動、その裏にある心理についてお届けしました。
続いての▶▶「そんなこと言ってないだろ」正論が通じない夫と暮らす地獄。私の心が壊れる前にできることって?
では、夫の都合によって事実がねじ曲げられていく「記憶の改ざん」や、妻の心がどう傷つけられていくのか、そしてFさんが自分の心を守るために選んだ対処法についてお伝えします。