演出家ラディスラス・ショラーからのラブ・コールを受けて、『La Mere 母』では若村がタイトル・ロール(母)を演じる。若村は『Le Pere 父』『Le Fils 息子』『La Mere 母』3作品にアンヌ役で出演。『Le Pere 父』ではこのアンヌ役で第27回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞し、昨年は主演ドラマで変幻自在の1人3役を演じて大きな話題となった。主演舞台となる本作で、無名塾出身の生粋の舞台女優・若村は全く違う2つの役を演じ分ける。
息子ニコラ役は、トップアイドルとして活躍後、アメリカの名門演劇学校での武者修行を経て『Le Fils 息子』で初舞台を踏んだ圭人。一流の演出家たちとタッグを組んでの数々の大作舞台、映像作品への出演経験を重ねて、着実に舞台俳優としての力をつけてきた。
ピエールの再婚相手ソフィア役とニコラの恋人エロディ役に伊勢佳世、『Le Fils 息子』では医師役に浜田信也、看護師役に木山廉彬が出演する。
◆「La Mere 母」日本初演・「Le Fils 息子」は2019年ぶり再演
『La Mere 母』は、ゼレールが『Le Pere 父』、『Le Fils 息子』の執筆に先立って、彼が31歳の時に3部作の最初に書いた作品である。2010年に本国パリで初演され、その後、さまざまな国での上演を経て、最近ではフランスが誇る名女優イザベル・ユペールの主演でブロードウェイでも上演されて大きな話題となった。
『Le Fils 息子』は、フランス演劇界で最高の栄誉とされるモリエール賞を受賞するなど高い評価を受け、ロンドンのウエストエンドなど世界13か国以上で上演。2022年にはハリウッドでゼレール自身の監督によりヒュー・ジャックマン、ローラ・ダーンの出演で映画化、2023年に日本でも公開された。
演出は、緻密に人間の本質を描き出す演出力に定評のあるショラー。フランスオリジナル版も手掛け、2019年に上演された『Le Pere 父』、2021年の『Le Fils 息子』で演出を務めたショラーは、家庭内で起こるメンタルな病の諸相に新たな視点で迫り話題に。シビアな現実を描きながらも、洗練されたスタイリッシュなステージを創造するショラーが日本人の実力派キャスト・スタッフとタッグを組む。
なお、『La Mere 母』は4月5日から29日まで東京芸術劇場 シアターイースト、『Le Fils 息子』は4月9日から30日まで東京芸術劇場 シアターウエストにて上演される。(modelpress編集部)
◆岡本圭人 コメント
『Le Fils 息子』初演時に、観に来ていた友人の言葉が、今でも耳に残っています。「この舞台を上演してくれてありがとう。本当に観られてよかった。救われたよ」。この言葉を聞いたとき、途端に涙が流れました。今までの人生が報われたような気がしました。そして新たに、役者としての自覚が芽生え、舞台に来てくださる皆様に「何か」を感じていただけるために、「今後の人生を歩み続けよう」と切に思いました。
『Le Fils 息子』の再演、そして新たに『La Mere 母』の同時上演が決まったと聞いたとき、心から喜びを感じました。ですが今は、役者としての使命感に駆られています。
三部作は連作ではなく異なる家族の話のようですが、私は『Le Pere父』では娘アンヌ、『Le Fils 息子』、『La Mere 母』では妻であり母であるアンヌです。今回のような2作品同時上演では、同じアンヌという名前には、娘、妻、母、女、人間を象徴していて、それは観客のアナタであると感じさせてくれます。作品同士の出来事や同じ台詞がミステリーの面白さを倍増してくれます。
今回日本初演の『La Mere 母』のように子離れをする難しさは万国共通なのかもしれません。日本にも「空の巣症候群」という言葉があるのを初めて知りました。自分の居場所とは。生きる甲斐とは。稽古を前に、再会するメンバーと新たな扉を開けるトキメキでいっぱいです。
若村麻由美
◆岡本健一コメント
『Le Fils 息子』が再演されます。2021年に台本を初めて読んだ時に感じた、とてつもない苦しみと、どうすることも出来ない哀しみが、信頼する演出家、役者、スタッフと稽古を重ねることによって日に日に具現化されていき、劇場では物語に引き込まれ、演じているのか何なのかわからなくなり、ただ存在した事実だけが残っていたことを思い出します。あのような辛い思いは、もう「体験したくない」というのが正直な気持ちでした。
けれども、この親子の物語をより多くの方々に観劇して貰うことが、どれだけ大切なのかも実感しています。
同時に上演する新作『La Mere 母』が描く世界には、愛の始まりから長い年月を経て、いつの間にか愛情があふれ出して、あらゆる方向に流れ、その思いをどのように受け入れて、消えゆく時間をどのように過ごしたら良いのか、限りない愛の行方を彷徨い、どこまでも巡らせてしまう作品です。
私が東京芸術劇場で演出するのは今回で3度目になります。ですが、フランスで初演していない作品を日本語で日本人の俳優で演出するのは初めてです。実はフロリアン・ゼレールが『La Mere 母』を書いたとき、私はまだ彼のことをよく知りませんでした。彼が私を信頼し、フランスでの演出を任せてくれるようになったのは『Le Pere 父』からです。『La Mere 母』は、私には珍しく両親と共にパリの劇場で鑑賞した作品です。両親と一緒に週末を過ごす前に、芝居を見に行ったのでした。観劇の後、いつまでも芝居の話をし続けたことが長い間心に残っていました。
フロリアン・ゼレールの戯曲はシンプルな言葉で観客の心に語りかけます。この3部作(『La Mere 母』『Le Pere 父』『Le Fils 息子』)は、悩み苦しむ家族の心を扱っています。3作それぞれで起こる出来事(『Le Pere 父』の消えていく記憶、『Le Fils 息子』の両親の問題で高校に行かなくなる息子、『La Mere 母』の親元を離れる年頃になった子供の旅立ち)が、家族という小さな世界を危うくし、安全と思えた家族を泡のように破裂させようとします。
『Le Pere 父』と『Le Fils 息子』に出演してくださり、今回『La Mere 母』でも演出することになる若村麻由美さんに再会できること、また、『Le Fils 息子』で岡本圭人さん、岡本健一さんと一緒に舞台を創れることを心から楽しみにしています。そして、長く、実り豊かなお付き合いとなったプロデューサー、アーティスト、技術スタッフの皆さんと再会できることを嬉しく思います。私を感動させてやまないこの3部作を、東京で完成させることをとても幸せに思います。