試作段階での事故やトラブルの多さから、「ウイドーズ・メーカー(未亡人製造機)」あるいは「フライング・シャィム(空飛ぶ恥)」とパイロット達から揶揄される「V-22・オスプレイ」。このオスプレイの日本国内・主として沖縄普天間基地への配備が大きな問題になっている。
黒船来襲の時の「太平の眠りを覚ます上喜撰、たった4杯で夜も眠れず」と言う戯れ歌が思い出される。古来より「戦争は発明の母」と言われ、多くの武器や道具類が生まれた。各種の火器・タンク・潜水艦・航空母艦・各種の爆弾・そのほか禍々しいものも多い。今回のオスプレイの源流であるヘリコプターはドイツが開発し、その後改良が加えられ、ベトナム戦争では戦場の主役になった。ベトナム戦争を通じ「ヘリコプターの有益さ」は確認されたが、「航続距離、スピード、上昇限度、輸送力などの脆弱さ」が認識され「次世代のヘリコプターの開発」が急務となったのである。
V-22はアメリカの2社が共同で開発した軍用機であり、回転翼の角度が変更できるティルトーター方式の垂直離着陸機である。本機の愛称であるオスプレイは猛禽類のタカの一種である「ミサゴ」のことである。ヘリコプターの利点である垂直離着陸・ホバリング・超低空での地形追従飛行をこなしつつ、通常の固定翼機のように高速移動かつ長い航続距離が可能ならば、それは戦略上非常に有用なことであり、両者の利点を併せ持つ航空機を求めたのである。
試作機は1977年に初めてホバリングに成功し、1979年にはエンジンとローターを前方に5度だけ傾けての飛行に成功した。1979年7月24日には完全に前方の水平方向に傾けての飛行に成功したというから、長い開発の歴史がある。試作段階から「新しいものにつき物の事故」が相次ぎ、仲間内で「ウイドーズ・メーカー・フライング・シャィム」と呼ばれた。アメリカ的なスラングであるが、かつては「不完全なままに実践配備された多くの機材」にも同じネーミングがされている。
2005年から量産が始まり約200機がすでに配備され、2007年にはイラクにも実戦配備されている。開発の意図を考えると「オスプレイはアメリカ軍の侵攻作戦の期待の星」と言っても過言ではない。その期待度は「最初の配備が海兵隊」である事にも現れている。アメリカが紛争に巻き込まれた場合、「身一つで現地に直行するのが海兵隊」である。海兵隊の要望である「より早く・より高く・より大量に」をオスプレイは実現できるのだ。
しかし、オスプレイの弱点は「ヘリコプターの基本機能であるオートジャイロ機能=エンジンが止っても回転翼は自然に回転し軟着陸が出来る機能」がない事といわれている。事故の映像を見てもエンジンが止まると、まさにあっけなく「制御不能」になる。およそ軍事用だから許されるという類の機材であり、事故や戦場で改良が加えられながら「完成してゆく」のが習いなのである。必ずしも東南アジアの状況が平穏ではない中で「米軍・沖縄の基地・海兵隊の存在」が日本の後ろ盾である現状を考えると「オスプレイ配備問題」は今後の日米関係の象徴なのではないかと思われる。
[気になる記事から時代のキーワードを読む/ライター 井上信一郎]
《NewsCafeコラム》
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