自動車・家電・AV機器を中心とした日本企業のアジア戦略の拠点国・タイの50年ぶりと言われる洪水騒ぎ。専門家は、洪水が長引けば、日本企業に与えるマイナスの影響は東日本大震災を上回る可能性があると言う。
TVは各地の工業団地の浸水状況と洪水が首都バンコクに迫り、3万人の邦人の生活にも影響が出始め、家族の帰国が始まっていると報じている。タイ中部にいる畏友からメールで下記の報告があった。
[現地の様子]
今回の洪水で中部アユタヤ県のサハラタナナコン、ロジャナ、バンワー、バンパイン、ファクトリーランド・ワンノイ、中部パトゥムタニ県のナワナコンの工業団地が洪水で浸水。被災した日系企業はホンダ、ソニー、味の素、ニコン、キヤノンなど400社以上。アユタヤでは団地内の水位は場所によっては4、5メートルに達し、広い範囲で製造設備や製品が水没した。
ソニーはタイの自社工場や生産委託先が洪水で被災したため予定していたデジタル一眼カメラ4機種の発売を無期延期。ホンダはタイ中部の大洪水で四輪車工場と二輪車・汎用製品工場の双方が操業を停止し、アユタヤ工場では浸水前に完成車約4000台を近隣のドンムアン空港に避難させたが、移動できなかった数百台が工場内で水没。トヨタ自動車のタイ工場は洪水の被害は受けていないが、タイ中部を襲った大規模な洪水で部品メーカーが被災し部品不足に陥ったため3工場全てで生産休止を28日まで延長すると発表した。
三菱自動車もタイ中部の大洪水で一部の部品メーカーが被災して部品供給に支障が出たため主要車種の生産を休止している。
タイは北部を除けば平たい国である。洪水も日本のような激しさはなく「穏やかな増水」と言う感じであり、国民も慌てていない様に見える。北部で洪水になればチャオプラヤ川の水は何日かして中部に到達し、アユタヤで氾濫し、その水が数日後にはバンコクで洪水を起こすのである。在タイ日本国大使館から「降雨・洪水に関する注意喚起」というメールが8月から頻繁に送られてくる。
洪水の危険が北部、中部、バンコク周辺へと移っていくのがよくわかる。タイの洪水は予測可能。タイ政府はバンコクの低地に住む住民に対し、家財を高いところへ移すよう呼びかけている。バンコク一帯では多数の自動車が高速道路の高架道路、橋などに避難駐車し、交通に支障が出ている。
洪水被害はタイの28県に広がり、被災者は約246万人、7月29日―10月20日の水害による死者は342人で、2人が行方不明。
この歴史的大洪水に対し、政権交代から間もないインラク首相は、防災・災害救助関連の権限を首相に集中する防災・災害救助法を発令した。軍、バンコク都庁などに対し、王宮、プミポン国王が入院中のシリラート病院、発電所、上水道施設、スワンナプーム空港(バンコク空港)、ドンムアン空港といった首都圏の重要拠点を洪水から守るよう指示。
テレビで見る限り、政府の対応は土嚢積みだけで打つ手がなく、水の引き具合頼みの状態。事態の取り敢えずの収拾に1ヶ月以上かかる見通しだ。
はやくも日本では車や家電の販売に影響が出始めている。衣食住の広い分野で日本経済ひいては世界経済は「タイでの生産」と深く結びついている。親日国であるタイの洪水禍からの早急な復旧には日本国としての支援が必要だ。
[気になる記事から時代のキーワードを読む/ライター 井上信一郎]
《NewsCafeコラム》
page top