「アートセラピー」について、芸術関係者と話をする機会がありました。被災地の子どもたちに絵を描くことで、被災後の心のケアになる、というものです。私はよいことであると思う反面、心配な面もあります。
よいことと言えば、子どもたちが持っている感情を絵にすることで、整理をさせることができる、という面です。例えば、地震や津波への恐怖を絵にした場合、ボランティアを含む周囲の大人たちが理解し、適切な接し方につながる可能性を秘めていると思えるのです。いわゆる「津波ごっこ」も、その一つでしょうから、被災体験を遊びの中で思い出すことがあります。遊びは感情を吐き出すことができる場面です。避難生活などで「よい子」をしなければならなかった子どもたちが、荒々しい感情を吐き出すことで、日常のバランス取ることがあります。アートセラピーも、似たような効果があるとは思います。
一方、心配な点もあります。絵を描くことで、過去の被災体験を思い出し、パニック状態になった場合を考えて、医療職や心理職との連携をどうしているのか、ということです。医療職や心理職が行っている災害ボランティアの場で、アーティストを招き、アートセラピーをする場合、アーティストたちはそこまで心配する必要はありません。「心のふた」が開いても、専門職達がフォローしてくれます。
日本心理臨床学会は「『心のケア』による二次被害防止ガイドライン」を発表しました。指針では、専門職と行うこと、と注意を促しています。こうした配慮も必要になってきます。
しかし、「よい子」を演じるのに慣れた子どもたちは、この「ガイドライン」そのものというよりは、ケアをする側の「まなざし」を感じ取り、「よい子」のままでいることがあります。よく、被災地のボランティア経験で、「子どもたちの笑顔で癒された」などの話も聞きます。もちろん、正直な気持ちなのかもしれません。しかし、「よい子」を演じる子どもは、「笑顔で癒す」ことを期待されていることを汲み取って、「ふた」をあけさせず、かえって、ケアができなくなるのです。
では、最終的にはどうすればいいのでしょうか。専門職のケアは、道具であり、一種の「薬」のようなものです。専門職は日常生活の人間関係ではなく、治療関係です。そのことを頭に入れつつ、日常の場面でどう接すればよいのかを考える必要があります。病名や症状は、治療側の「基準」です。日常生活では、その「基準」は、参考にしつつ、あくまで目の前の人とどう接するのかを考えるべきでしょう。
《NewsCafeコラム》
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