2010年は、裁判に市民感覚を取り入れ、一般国民が参加する裁判員制度が始まりました。
注目の裁判のひとつとして、裁判員裁判での初めての死刑求刑事件をあげたいと思います。
耳かき店店員とその祖母を殺害した事件です。私はこの裁判を傍聴しました。
2009年8月、東京・秋葉原にある「耳かき店」の店員と祖母の2人が自宅で殺害されました。
被告が「(店員を)殺すしかない」と思うまでの経緯を聞くにつれて、私は被告人と被害者との関係以外にも、「耳かき店」のサービスシステムに問題があるのではないか、と思いました。
店内はメイド喫茶やキャバクラの雰囲気も醸し出しています。
サービスをする部屋は「3~4畳の畳のブース。しきりが約1メートルのベニア板があり、すだれがかかっている。入り口はのれんがある」(店長証言)。
耳かき以外にも肩もみやハンドリフレがあるのです。料金は60分5800円(指名料込み)。
このうち、従業員には3000円が歩合となります。時給制ではありません。
殺害された店員は、2008年12月には、65万4250円を稼いでいるのです。
そのためには様々なリピーターになってくれるための営業トークがあります。
私もこの店に行きましたが、客との距離感を縮めるために、少しでも同調や共感できるポイントを探す点は、キャバクラのトークテクニックそのものでしょう。
そこに08年5月ごろから、被告人が通うようになります。
被告は酒を飲まず、仕事場では真面目な勤務態度でした。
メイド喫茶やキャバクラに通うような男性なら、恋愛感情に似たものが生じても、殺害を考えることはなかったかもしれない。
しかも、被告は27歳のときに難病を煩い、再発すると命の危険があった。そのため、被告人は、将来、結婚をあきらめていた。
そんな思いで生活していたときに、たまたまインターネットでこの耳かき店を被告が見つけます。
そして女性従業員が心の距離を縮める会話をしてきた。週に3回、1回に7~8時間もサービスを受ける。店側も"上客"として扱っています。
被告は「恋愛感情を抱いていない」と証言しましたが、平凡な日常を送っていた被告にとって、とても楽しく、有意義な時間でした。
それがトラブルで出入り禁止となったことで、「居場所」でもあり、心地よい時間を作っていた女性従業員とのコミュニケーションができなくなる。
その真意を確かめようと"つきまとい"行為となりますが、拒否され続けることで、「殺すしかない」と思うようになるのです。(続く)
《NewsCafeコラム》
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